「11時間説得も突入期を逃した?」人質の医師が散弾銃で撃たれ死亡…埼玉の立てこもり事件で小川泰平氏指摘

  埼玉県ふじみ野市の住宅立てこもり事件で、埼玉県警は28日朝、捜査員を突入させ、住人の無職渡辺宏容疑者(66)を殺人未遂容疑で逮捕した。現場から凶器とみられる散弾銃が見つかり、人質となっていた医師鈴木純一さん(44)は渡辺容疑者に撃たれたとみられ、心肺停止の状態で搬送されたが、死亡が確認された。また、医療関係者の男性2人が撃たれるなどして負傷した。 元神奈川県警刑事で犯罪ジャーナリストの小川泰平氏は同日、現地を取材し、当サイトに対し、突入したタイミングの問題点や今後の捜査の焦点などについて解説した。

 27日午後9時15分ごろ、発砲音を聞いた住民らの通報が相次いで事件が発覚。鈴木さんが死亡し、理学療法士とみられる41歳の男性は胸を撃たれて重傷を負い、30代の医療関係者の男性は顔に催涙スプレーをかけられて目を負傷したが、警察署に避難した。

 捜査関係者によると、撃たれるなどした被害者3人は在宅クリニックの関係者で、訪問医療を受けていた渡辺容疑者の母が最近亡くなっていた。県警は、同容疑者が在宅医療や介護の担当者を自宅に呼び出して発砲した疑いがあるとみて調べている。

 小川氏は「容疑者が被害者3人を呼びつけたのか、1人を呼びつけて後の人が付いて来られたのか詳細は分かりませんが、自宅に呼びつけたということは、危害を加えてやろうと思い、凶器を用意して待っていた。そこで何かトラブルがあったのだと思いますが、警察が突入した際には人質の鈴木さんが撃たれていたことは分かっていなかった。その間、発砲音は聞こえていませんから、夜9時過ぎの最初の発砲音の時に被害に遭われていた可能性がある。発砲はその1度だけと思われます」と経緯を説明した。

 警察は朝8時前の捜査員突入まで約11時間にわたって説得にあたったが、こう着状態が続いた。

 小川氏は「容疑者の年齢や立てこもった場所の環境、被害者の年齢や性別を含めた状態、単独犯か共犯者がいるのか。そういった情報を元に警察の特殊班の捜査員は突入の準備をしながら、突入の時期を待ち、そのタイミングを探っていたと思われますが、今回は中の様子が分からなかった。『人質立てこもり』と報じられたように、当然、警察も人質は生存しているという前提で発表しているわけですから、簡単には飛び込めなかった。まさか、撃たれているとかは全く思わず、特殊班が待機をして飛び込む機会をうかがっていたということでしょう」と付け加えた。

 小川氏は「催涙スプレーをかけられて警察に逃げ込んだ男性の話を聞いても、逃げるのに精一杯ですから、他の男性がどの程度のケガをしていたかは分からなかったとのだと思います。容疑者が警察のネゴシエーター(交渉人)と話している時に、人質の生存を匂わせていたことから、すぐに飛び込むことを躊躇したのだと思われる。実際に亡くなっているとか負傷していると分かっていれば、そんな長時間、交渉している暇はないので、もっと早くに突入しなければいけなかった。結果として人質は亡くなってしまった。結果論ですが、今回は突入時期を逃してしまったと言わざるを得ない」と指摘した。

 容疑者の凶器について、小川氏は「催涙スプレーについては、相手が複数来ると分かっているので、威嚇して動きを封じるために使ったのだろう。年齢的に容疑者の方が圧倒的に高齢ですので、抵抗される可能性もあるということで、催涙スプレーや散弾銃を用意して被害者を呼びつけたんだろうと思います。許可なくして散弾銃を持つことは難しいと思われますので、許可を得て所持していたと思われますが、狩猟等の趣味があったかどうかはまだ分かっていません」と解説した。

 小川氏は事件現場の住宅街から、同容疑者の身柄が送られた東入間署に移動して取材を続けた。

 同氏は「容疑者は寝ておらず、66歳という年齢的にも疲労困憊(こんぱい)していた。動機はこれからの取り調べで本格的に行なわれるでしょう。今回は容疑者から何の要求もなかったこと。また、医療従事者を散弾銃で撃たなければいけないほどの恨みが本当にあるのかどうかも現時点では疑問に思う。容疑者が人質のことを警察にどのように話していたか、どのようなやり取りがあったかも検証されていくでしょう」と今後の焦点を挙げた。

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