「今夜が山」と宣告された保護猫 一命を取り留め奇跡の復活「命と真剣に向き合うこと」を教えてくれた

京都市内で猫のTNR活動などに取り組むボランティアたちが今年2月に開設した保護施設「保護猫ハウス まなねこ」(以降、「まなねこ」)。開設してから1カ月ほど経ったある日、ガリガリにやせ細り衰弱した野良猫がやって来ました。

野良猫は、京都市内の団地で保護された白猫。保護主さんによると、数週間前に見掛けたときよりもやせてしまい、顔も体も汚れていたといいます。ただ、保護主さんは自宅で飼えない事情があり、保護する前に白猫を受け入れてくれるという近所の人を見つけていました。

■ガリガリにやせ細り衰弱した野良の白猫

しかし、保護したあと白猫が猫風邪を引いていたことやシラミがいたことなどから、近所の人から「うちの子たちにうつると困る」と白猫の受け入れを急に断られたのです。すぐに愛護団体などにもあたってみましたが、見つからず・・・このまま見つからなかったら、「また元の場所に戻すしかない」と途方にくれていました。わらをもつかむ思いで、預かり先を必死に探し続けました。そんな中で出会ったのが「まなねこ」でした。

初め「まなねこ」側は、白猫の受け入れを断りました。もともと「まなねこ」は公園に住んでいた猫たちを保護するために開設した保護施設。当時は活動をスタートさせたばかりで、保護した猫たちの去勢・避妊手術などでお金が掛かり、白猫にかかる医療費を負担する余裕がなかったからです。そこで保護主さんは、全て医療費を負担することを約束。保護主さんの白猫を助けたいという強い思いを受け止め、「まなねこ」で白猫を預かることになりました。

■保護施設に迎えられ、名前は「主(ぬし)」に

白猫の名前は、「主(ぬし)」。ずっと同じ場所にいて“主”としてその場所を守っているように見えたことから、保護主さんが名付けました。主のお世話は「まなねこ」スタッフ全員が協力し合い、スタッフのにゃん子さんが保護主さんとの連携を取る役割も担当。動物病院に連れて行くと、10歳くらいの女の子という主は体重2.2キロほどしかありませんでした。ノミやシラミがいたほか歯が抜けているところも多く、口内炎や結膜炎、白血病陽性などと診断されたそうです。

「こんな状態でお外に戻されていたらこの子は生きていられなかったはず・・・」

にゃん子さんたちの心配はよそに、主は「まなねこ」に来てから食欲旺盛でゴロゴロと喉を鳴らしながらご飯を何度もお代わり。10日ほどで体重も1キロ近く増え、順調に体調も改善してきました。保護主さんも何とか時間を作り、「まなねこ」にほぼ毎日足を運んで主と面会。日に日に元気になっていく姿を喜んでいたといいます。

■保護されて1カ月、主の身体に異変が起きた

そんな穏やかな日々が一変したのは、「まなねこ」に来てから1カ月ほど経った3月下旬。主の身体に異変が起きたのです。にゃん子さんが猫たちのお世話に「まなねこ」に行くと、主の体が冷たくなり低体温症を起こしていました。その日は日曜日だったこともあり、にゃん子さんは主を自宅に連れて帰り身体を温めてご飯を食べさせたそうです。

翌日、かかりつけの病院へ。一般的に猫の体温は38度から39度が平熱といわれていますが、主の体温は37.2度。さらに、脱水症も起こしていました。獣医師からは「高齢のため腎機能が低下したほか糖尿病性ケトアシドーシス(糖尿病急性合併症)による重度の脱水症などから低体温を起こしたようです。これ以上体温が下がると危険」と宣告。この日の夜、ニャン子さんは夜通し主の身体を温めるなど看病したといいます。

■主の最期を覚悟も・・・最善を尽くすため入院へ

必死の保温もむなしく、次の日の朝には主の体温は35.8度まで低下。再び病院に行くと、獣医師さんから「今夜くらいが山場かもしれない」と告げられました。主の病状を聞いて「まなねこ」に駆け付けた保護主さん。ボロボロと涙を流したそうです。

「最期は保護主さんと一緒に過ごしてもらいたい。でも、あきらめたくない」・・・涙を流す保護主さんを見ながら、入院をさせるかどうか迷ったというニャン子さん。同時に、保護主さんも判断できずにいました。そこで、「まなねこ」の代表・らくさいキャットさんから「最後まであきらめずに(主に)やってやれることはやろう!」という言葉を掛けられ、保護主さんも入院を決意。主は急きょ入院となりました。

■入院した翌日、一転して主の体調が回復

主は点滴をしながらICU(集中治療室)に入り治療。血管からの点滴の際に行った血液検査では糖尿病も発症していたそうです。入院した翌日、主は体温も上がっており、血糖値も下がっていました。何とか一命を取り留め、それからにゃん子さんも保護主さんも毎日面会。ご飯を食べさせたり、身体をなでながら話し掛けたりして闘病する主を励ましたそうです。ついに4月7日には点滴がとれ、17日には退院となりました。

主ちゃんの回復ぶりに、保護主さんは「今夜が山と言われた日から、毎日ニャン子さんと面会に行ってご飯を食べさせ、主との時間を大切にしていました。その思いが通じたのか、主も応えるようにご飯を食べてくれたり、目、尻尾などで受け答えしたり。会いに行くたびにできることが増えて毎日が感動したし、うれしかったです。あきらめなくて良かったと心から思いました」と振り返ります。もちろん、にゃん子さんたち「まなねこ」のスタッフ全員も大喜び。獣医師さんからは「本当にすごい!入院した日は命が危ないと思いましたが・・・こんなに元気になるとは。奇跡の復活やね!」などとお祝いの言葉を掛けられたそうです。

■保護主、施設スタッフの二人三脚で守れた命

5月に入り、退院して20日過ぎました。現在の主は、血糖値を抑えるインシュリンの注射を打ちながら週1回ほどの通院を続けているそうです。退院時に2.8キロまで減った体重も今では3.2キロに回復。5月以降も主は「まなねこ」で預かることになりました。

にゃん子さんが「まなねこ」の保護施設で子猫のお世話をしていると、ミーミー鳴く子猫に反応して、主が「どうした?」と言わんばかりに「にゃーー」と鳴きながら近付いてくるとか。また、保護してから見ることなかった主の毛繕いも見られるように。ダイナミックに足を上げて毛繕いをしている主の姿を見て「やっと主にも心の余裕が出てきたのだな」と、にゃん子さんは感激したといいます。

主と出会ったことに、にゃん子さんはこう話してくれました。

「保護して預かって体調が戻ってきた矢先に低体温症などで命の危険にさらされた主。そして入院と本当に激動の2カ月でした。入院生活はただただ主の生きたい気持ちに寄り添って過ごした日々でした。また保護主さんも入院中は仕事終わりに毎日面会。医療費も負担していただきました。本当に保護した責任として自分たちでやれることをしっかりやってくださいました。保護主さんと私たち『まなねこ』と二人三脚で守れた命だと思っています。それになんといっても献身的に医療のサポートをしてくださった動物病院の先生には感謝しかありません。

活動が始まったばかりの『まなねこ』に主が来てくれたことで、スタッフ全員が命と真剣に向き合うことができました。たくさんのことを私たちに教えてくれた主。出会えたことは本当に奇跡であり、ありがとうといいたいです」

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)

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