「お花摘み」もう1つの意味、知ってますか? 人気お笑いトリオ四千頭身もネタで使用…登山用語がルーツ

 先日、テレビからこんなシーンが流れてきた。人気お笑いトリオ「四千頭身」によるショートコントだ。

 男女3人組のピクニック。女性役の1人が「ちょっとお花摘みに行ってくるわ」と立ち上がる。残された2人のうち1人は「?」。するともう1人が「わかるだろ、女性がお花摘みに行くって言ったらトイレ行くことだろ」。「でもこの場所だったら本当にお花摘みに行ってる可能性ある」。「ピクニック中だし、どっちだろうな」

 この出だしを見てふと思った。「お花摘み」=「トイレに行く」の意味はうっすらとは知っていたが、身近であまり聞いたことがない。ストレートに言いにくい場合、女性なら「ちょっと化粧直しに…」などの言い回しが思い浮かぶ。しかし、さまざまな人気ランキング上位常連で、お笑い第7世代をけん引する若手がネタで使うということは、思いの外浸透しているのだろうか。

■「お花摘み」由来は?

 トイレに行くことを意味するお花摘みはどこで生まれたのか。

 広辞苑と三省堂国語辞典第七版には「摘む」の意味や「花を摘む」という例文はあったがお花摘みの項目はなかった。

 さらに調べると、どうも山用語が由来らしいということが分かった。図書館で登山用語集を片っ端からめくった結果、登山家田部井淳子さんによる山岳用語を集めた1冊「山の単語帳」(世界文化社)に答えがあった。

 「雉(きじ)撃ち、お花摘み。雉撃ちは山の隠語で、男性が山中の野外で排泄することです。その姿が雉を撃つ猟師が藪に潜む姿に似ていることから。大便を大雉、小便を小雉といったりします。女性の排泄は『お花摘み』といいます。花を摘む姿に似ているからですね」(「山の単語帳」15ページから引用)

 用を足すことをお花摘みと言い換えたセンス。名付け親までは分からなかったものの、発案者の詩人ぶりには感心してしまう。

■SNSや本のタイトルにも

 SNSで検索すると意外や意外、多くの人が日常で使用していた。「夜中にお花摘みに起きた」「お花摘み行ってから配信見よう」など。ペットの犬が道端で片足を上げる写真をアップし「散歩中にお花摘み」と投稿する人もいた。

 コミックの世界では2018年、徳間書店から「ダンジョンでお花摘みなんか許しません!!」(はのみど・著)が発売された。昨年7月発売の4巻の紹介文には「王道RPGの世界観を背景に『おトイレ』=『お花摘み』を巡る冒険者たちの切実な戦い(?)を描いた全世界待望 前代未聞 唯一無二の【お花摘みRPGファンタジー】降臨!」とある。

 トイレのない山での隠語が、いつしか下山後の街中でも広がっていたようだ。

■異名は1000語超

 「トイレ学大事典」(日本トイレ協会編、柏書房)という本がある。B5サイズ400ページ超。分厚さ3.5センチ。トイレにまつわる全てが詰まっていそうな1冊だ。

 同書によると、トイレの異名は軽く1000語を超えるという。

 一般的なものでは、「化粧室、便所、厠(かわや)、雪隠、手水、憚(はばか)り、西浄(せいちん)、東司(とうす)、川屋(かわや)、御不浄、閑所(かんじょ)、おとう、不浄所、思案所、樋殿(ひどの)、御用場」(「トイレ学大事典」148ページから引用)。

 隠語では、「さんさん、さんのじ、しものせき、じんきゅう、ずばちょう、ずぼちょう、すみれ、ぴょんそ、ぴょんそん…」(「トイレ学大事典」149ページから引用)。

■デパートごとに違う符牒

 百貨店の従業員同士で使われる符牒にも「トイレ」を意味する言葉がある。遠方、すけんや、にのじ、じんきゅう、サンサンなど、店ごとに呼び方も違う。かつて西武百貨店に勤務していた人に聞くと、「すけんや行ってきます」のように使っていたそうだ。

 恥じらいや相手への気遣いで生まれた「トイレに行く」の隠語の数々。心置きなく仲間たちと集まり、「ちょっとお花摘み行ってきます」と言えるような日常が早く戻って来てほしいーーと願わずにはいられない。

(まいどなニュース・金井 かおる)

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