コロナ禍で映画の配給会社に何が起きていたか ハリウッド新作の公開控える大手に聞く

新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急事態宣言や休業要請が解除され、全国の映画館も客席に間隔を設けるなどの対策を講じながら営業を再開。少しずつ以前のにぎわいを取り戻しつつある半面、各配給会社が新作の公開を延期しているため、旧作の上映でしのいでいる劇場も多い。そんな中、映画ファンが公開を心待ちにしていた「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」が、ハリウッド新作の先陣を切る形で、6月12日(金)から全国公開されることになった。

「レディ・バード」で旋風を巻き起こしたグレタ・ガーウィグ監督の最新作。シアーシャ・ローナンやエマ・ワトソン、ティモシー・シャラメら豪華キャストを迎え、世界的ベストセラー小説「若草物語」に新しい命を吹き込んでいる。第92回アカデミー賞では作品賞を含む6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した注目作だ。

配給するソニー・ピクチャーズによると、「ストーリー・オブ-」は当初、3月27日公開を予定していた。しかしコロナ感染拡大を受け、3月初旬にはいったん「初夏」への公開延期を決定。4月下旬にはさらに延期する方針を明らかにしていたが、急遽、公開を前倒しした背景には何があったのか。同社の日本副代表、佐藤和志さんに聞いた。

「映画業界も大変なことになる」と覚悟した2月

「ダイヤモンド・プリンセス号での感染拡大や、2月下旬の全国一斉休校要請などの動きを見ながら、『これは映画業界も結構大変なことになる』と覚悟しました。実際、多くの配給会社が3月の勝負作品を全部延期。映画館から人もいなくなり、一気に状況が悪くなりました」

「このタイミングで中途半端に公開して、もし中断されるようなことになれば、その後は再上映も難しいでしょう。『ストーリー・オブ-』の公開を楽しみにしている人たちが、映画館で見る機会を失うことだけは避けたい。だから早めに延期を決めました」

その後の感染拡大を受け、全国の映画館は軒並み休業。5月半ばから東京や大阪などの特定警戒都道府県を除く地域で営業が再開されたが、感染防止策で座席が減らされていることや、上映作の多くが旧作であることなどが影響してか、なかなか数字が振るわない。劇場が新作を「渇望」しているのは、配給会社として痛いほど感じていたという。

「でも、東京圏や関西、福岡の劇場が開いていない状況で新作を封切るのは、数字的なリスクが大きすぎるんです。実は、特定警戒都道府県を除く34県の興行収入のシェアは全体の25%ほどしかない。そもそも、このクラスの作品を東京大阪に先行して他県で上映するのも、ほとんど前例がありません」

それでも「停滞する映画業界の突破口になれば」という思いで、東京大阪を除く異例の公開に踏み切った。アメリカの本社も志を理解し、後押ししてくれたという。

「映画ファンだけでなく、全国の劇場さんからの反響も大きかった。『うちでも上映したい』という熱いオファーをたくさんいただきました。5月25日の段階では128館で公開予定でしたが、最終的に『スパイダーマン』クラスの340館まで増えました」

結果的には首都圏での休業要請解除も早まったため、公開初日の6月12日には全国の劇場が営業を再開できている見通しに。佐藤さんは「新作が封切られる、映画館が開いている、という明るいニュースが溢れることで、映画業界が活気を取り戻せたら。他の作品もどんどん公開され、お客さんも劇場に戻ってきてくれることを願います」と話す。

「売り上げゼロ」配給会社も深刻な打撃

ここ数カ月、コロナ禍で収入を絶たれた映画館、特にミニシアターを救済しようという動きが注目されたが、配給会社のダメージも深刻だったという。

「映画部門は、4月から売り上げがほぼゼロになっています。映画館があんな状況でしたから、耐え忍ぶしかありませんでした」

「一方でNetflixやAmazonプライムなど家で楽しめる映像ストリーミングのビジネスは相当伸びたようです。しかし、ソニー・ピクチャーズは明確に『映画館が最優先』だと考えています。どこまで貢献できるかはわかりませんが、『ストーリー・オブ-』のいち早い公開をひとつのきっかけとして、『映画館に人が戻る』という流れをつくりたい。自分たちは、映画業界がこれから挑んでいく長い“駅伝”の第一走者のつもりで全力を尽くします」

自信の新作、「ぜひ映画館で」

佐藤さんは映画館の感染リスクについてもこう言及する。

「まだ映画館に警戒心を持っている人がいるかもしれませんが、映画館は興行場法に基づいて運営されており、自治体の定める換気の基準もクリアしています。まして今は消毒も徹底されており、客席も間隔を設けている。“密”とはほど遠く、比較的安全な場所なのだということは、あらためて強調しておきたいです」

紆余曲折を経て決まった公開日が、いよいよ数日後に迫った。佐藤さんは「何度も映像化されている不朽の名作で、アカデミー賞などでも高く評価されており、クオリティには絶対の自信があります」とアピール。「小説家志望の次女ジョーに焦点を当て、困難に負けず前に進んでいく女性の姿を描いているところが本作の新しい見どころ。大変な時代だからこそ響くメッセージに満ちていると思います。ぜひ、以前のように映画館で楽しんでいただければ」

「ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語」は6月12日公開。

(まいどなニュース・黒川 裕生)

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