ネット授業はあるけれど…大学現場を悩ませる「実験」の方法 京大教授が明かす

 「科学よもやま話=13=」

 失敗から学ぶ。最近の若い人は失敗を恐れて云々(うんぬん)という話ではなく、いま現実に困っている話です。新型コロナの影響はあまりにも大きく、当然大学の教育にも影響しています。

 座学については、近年のネットワーク環境が劇的に変わったおかげで、ネット授業を行うことでなんとかなっています。私もこれまでに数回授業を行いましたが、普段より出席率が良いことに驚きました。まあ、気楽に聞けるからBGM感覚なのでしょうか。

 普段の授業では、ガシガシ黒板に書いていきますが、ネット授業では教える内容をスライドにしてあらかじめ送信していますので、黒板に書く時間が必要なく、スライドの説明でひたすら話をすることになり、なかなか大変です。これでは学生さんも疲れるでしょうから、何か工夫をしないとダメですね。

 さて、困るのは実験です。学生実験は当然、大学に来る必要があり、いわゆる、『密』の状態になるために、これをどうするか?実験を教員が行って、ビデオで撮影し、それを見せては?などの意見もあります。

 しかし、実験は冒頭に書いた「失敗してなんぼ」と言いますか、経験が重要なところなので、画面で見て、いざ一人になったときにできるかというと、「?」です。やはり、自分の手を動かして、なんぼの世界です。もちろん、だからといって、生命の危険をおかしてまで、学生実験をやりましょうとはなりませんので、困ったことになっています。

 私が学生のときも研究室の実験では、さんざんやらかしました。材料の量をあまり深く考えずに、適当に入れて温度を上げていったら、ドカンと電気炉の中で爆発してしまいました。今ならかなり怒られますが、当時指導していただいていた先生は笑いながら、次はしっかり計算してよと言われるだけでした。もっとも、その先生も数日後、サンプル管を爆発させて、血だらけになりながら、ちょっと間違えたとつぶやいていたことを私は忘れることはないでしょう。

 博士課程になって比較的研究を慎重に行うようになると、この薬品とこの薬品を混ぜたいけど、混ぜると危ないのではとある程度分かるようになりました。そこで、その薬品に詳しい同期の友達に聞くと、それは危なくないよと言われましたので、混ぜたところ、ドカンといってしまいました。もちろん、少量しか混ぜないので、ドカンといってもそれほど危険ではないようにしていますが、なかなか衝撃的な反応でした。

 その同期に話をしたところ、その反応はマイナス20度くらいでするのが常識で、室温ですると危ないよと教えてくれました。先に言ってよという話なのですが、お互いの常識の違いが招いたヒヤリハットでしたね。「失敗から学ぶ」とはよく言ったものです。

 テレビでたこ焼きを失敗せずに作れるタコ焼き器が取り上げられてまして、それを見ながら、いや、たこ焼きはうまいこと作れないのが面白いんとちゃうの、そんな器械は邪道ちゃうのと思ったのがこの内容を書くきっかけになりました。

 美味しければなんでもよいのですが。毎日コロナ、コロナで暗い話題ばかり。外出できないなら、せっかくの機会です。美味しいたこ焼きでも作りませんか?

◆安部 武志 2009年、40歳で京都大学工学部研究科教授に就任。電池技術委員会賞、炭素材料学会学術賞などを受賞。京大工学部卒、大阪府出身、51歳。趣味はゴルフ。

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