工事現場のお兄さんと散歩していた不思議な子猫 一度目の譲渡で脱走経験…自分で幸せつかんだ

 2018年の秋、私たち夫婦が兵庫・宝塚市内で代表を務めている動物愛護・福祉協会「60家」に子猫の保護依頼があった。「人懐っこい子猫が工事現場のお兄さんと一緒に道路を歩いていて、とても危険だ」。話を聞くと、その地域に工事現場の寮があり、子猫は寮のお兄さんにパンなどを与えられ、とても懐いているという。ただし、お兄さんはこの子猫を家で飼うつもりはないらしい。

 そのお兄さんが寮から100メートルほど離れているスーパーマーケットへ歩いて向かうと、待ってましたとばかり子猫も一緒について行く。子猫は買い物が終わるまで外で待ち、お兄さんがお店から出てくるとまた一緒に寮へ戻って行く。

 とても頭の良い猫だなと感心したが、寮からスーパーマーケットまでの道はとても交通量が多く、いつ事故に遭ってもおかしくない状況だ。私たちはただちに保護へ向かうことにした。

 現場で子猫を探していると、一人のお兄さんがちらちらと足元を見ながら歩いてきた。どうやら探しているお兄さんのようだ。足元を見ると、子猫がピッタリと引っ付いて歩いている。お兄さんに話しかけた。

 「このままでは子猫は危険だし、こんなに人懐っこいのであれば保護して里親さんを探すとすぐに見つかるだろうから保護させて欲しい」と伝えると、すんなりと了承してくれた。

 保護した子猫は生後半年程のキジトラのオス猫。名前はチョコだ。チョコは立派な鍵しっぽ(シッポが短くて曲がっている)の持ち主。鍵しっぽは「幸運の鍵しっぽ」とも言われている。人にも猫にも優しい性格で、直ぐに保護猫たちとも仲良くなり、優等生の看板猫になった。

 里親さんも早い段階で見つかるだろうと思っていたが、毎月開催している譲渡会に参加しても声がかからない。というのも譲渡会の雰囲気に緊張して固まり、いつものチョコの良さが出せなかったからだ。

 しばらくして、シェルター(保護施設)に里親希望で来られた方から、やっとトライアルの話が入った。トライアルとは正式譲渡前のお試し期間である。2019年春、トライアルをスタート。その後順調に進んでいたが、トラブルが起きた。

 ある日トライアル先から電話があり、チョコがベランダから脱走したという。慌ててすぐに現地へ向かい、捜索を開始した。だが、町には猫の気配すらなく、呼んでも出てこない。

 「もう会えないかもしれない…」

 一瞬頭をかすめたが、諦めず総出でほぼ24時間体制で探しに探した結果、3日後に保護することができた。しかし、トライアル先の家族は猫を飼う自信がなくなり、チョコはシェルターに戻ることになった。

 再び新しい里親さんが現れるのを待ったが、里親希望の家族が訪れてもチョコには声がかからない。当時のシェルターには子猫が多くおり、里親希望の方もまずは子猫を希望するからだ。チョコも訪問者に対して愛想を振りまかなくなった。

 しかし、その日だけはなぜか様子が違った。そのときの訪問者は大人猫を家族に迎えたいと考えていた。チョコは何か感じたのだろうか。トコトコとその方に近づいて行き、膝の上に座りくつろいだのだ!

 この方からチョコを家族に迎え入れたいと声がかかり、チョコはトライアルを経て正式譲渡となった。新しい名前はロッキー。ロッキーは里親さんの後をずっとついて歩き、甘えてくるらしい。先住猫はおらず、老猫の様に毎日まったりしている。

 ロッキーが初めてこの里親さんに会った時、「このお家なら幸せにしてくれる」と、自分で幸せをつかみに行った様に見えた。ありがたいことにいまも優しいご家族と一緒に幸せに暮らしている。

(NPO法人動物愛護 福祉協会60家代表・木村 遼)

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