邦画で性描写が減る理由とは?ロマンポルノを支えた脚本家・荒井晴彦に聞く

映画『火口のふたり』脚本・監督の荒井晴彦(撮影:石井隼人)
映画『火口のふたり』瀧内公美と柄本佑(C)2019「火口のふたり」製作員会
映画『火口のふたり』瀧内公美と柄本佑(C)2019「火口のふたり」製作員会
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俳優の柄本佑(32)と女優の瀧内公美(29)が主演する『火口のふたり』(8月23日公開)は、激しい性愛描写を通して男女の赤裸々な心の内を描き出すR18指定の衝撃作。

映画『赫い髪の女』『Wの悲劇』『大鹿村騒動記』で知られる名脚本家・荒井晴彦(72)がメガホンをとった。企画立案から映画化実現まで、かかった歳月は約5年。一番のネックになったのは、本作のキモともいえる激しい濡れ場だった。

エロスがスクリーンやテレビ画面を通して視聴可能だった時代も今は昔。様々な分野で自主規制が推し進めらる現代において、にっかつロマンポルノの時代から性愛を通して人間の姿を描き続けてきた荒井監督は、近年より一層エロス表現の高い壁を感じている。

まずは演じる側の問題。荒井監督は「やってくれる人がほとんどいないし、たとえ俳優本人が乗り気になったとしても、芸能事務所が『CMの仕事が来なくなる』などの理由で断ってくる。ハリウッドではニコール・キッドマンやシャーリーズ・セロンら大物女優が脱いでいるのに」と残念そう。その結果、濡れ場シーンは描かれないか、あっても濁すような中途半端な表現になってしまう。

若い観客の感受性の変化も感じている。「“草食”なんて言葉が生まれたように、若い男の童貞率も高い。アニメやファンタジー系は観るけれど、リアルな男女の物語は避けられがち。少女漫画原作のキラキラ映画ばかりが溢れたことによって、濡れ場のあるリアルな物語に対する拒否感が強くなっている」と分析する。

そんな逆風の中で手を挙げたのが、柄本佑と瀧内公美。インモラルな性愛関係を大胆に表現する。佑の父親・柄本明(70)は、荒井監督の映画監督デビュー作『身も心も』に出演するなど同志ともいえる存在。

佑について荒井監督は「頭の回転も速いし、父親と同じ天才肌。こちらの意図をすぐに理解して体現してくれる」と大絶賛で「佑はこれまでトップとして使われる機会がなかったけれど、去年の仕事で主演男優賞をもらって主演の風格が出てきた。そのタイミングもあったし、年齢が原作よりも若く設定されたことで作品がポップになった」と手応えを得ている。

映画『彼女の人生は間違いじゃない』で数々の賞を受賞した瀧内はオーディションで抜擢。「オーディション参加者の中には『本番をしてもいい』と言ってくれた女優もいたけれど、瀧内のサバサバしているところに惹かれた」と起用理由を明かし「現場の雰囲気から構えないで普通にいればいいと察してくれたようで、芝居というよりも素のままでいてくれた」と勘の良さを指摘する。

食べて、寝て、お互いの肉体を求めあう。ただそれだけ。ゆえに荒井監督はリアリティを目指した。中でも食事をしながら会話する場面は興味深い。咀嚼しながらの演技で聞き取れないセリフもある。そのやり取りが妙にリアル。

「映画ってどうしてひとりが喋り終わるのを待って順番に台詞を喋り、しっかりと聞き取りやすいように喋らないといけないのか。それに対する疑問が昔からあった。日常会話では言葉はかぶさるし、食べているときは聞き取れないことだってある。リアルだとそうなるので、それを今回の映画で実践した」と細部にもこだわりを見せる。

表現の自主規制が横溢する時代。『火口のふたり』がエロスの限界に挑んだ意欲作であることは間違いない。

(まいどなニュース・石井隼人)

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