保護した子猫はてんかんに水頭症、そして難聴だった…「心のふれあい」で猫も飼い主も成長

真っ黒くろの葉(よう)ちゃんが、東京都の楠さんに保護されて、お家にやってきたのは、4年前のことです。まんまるお目々がチャーミングな男の子ですが、てんかんと水頭症という病気を抱え、難聴という障害も持っています。命が危ぶまれていた時期もありましたが、あたたかい家庭に育まれ、ゆっくり葉ちゃんなりのペースで、成長しています。

出会いは暑い夏のころでした。外食に出かけたところ、アスファルトの上でぐったりしている葉ちゃんを見つけました。「放っておけず、当時飼っていたウサギを診てもらっていた近くの動物病院に駆け込みました」と楠さん。高熱と衰弱…病院の担当医に「覚悟して下さい」と言われ、複雑な気持ちになったといいます。

4日ほど入院し、一命をとりとめます。生後6カ月くらいの猫でした。「先生に『この子どうしますか?』と聞かれたときには、気持ちはすでに『うちの子』になっていました」と楠さん。しかし、連れて帰った葉ちゃんは、もっと大きな命の危険を抱えていたのです。

ある日、楠さんが仕事から帰宅すると、葉ちゃんは叫びながら、のたうちまわっていました。てんかんの発作を起こしていました。紹介された大学病院で精密検査を受けると、医師から衝撃のMRI画像を見せられました。

「脳がぺらぺらです」

葉ちゃんは水頭症という、頭の中に髄液が過剰に貯まってしまう病気を持っていました。多くなった髄液が脳を圧迫し、文字通り脳がぺしゃんこになっていたそうです。また、てんかんだけでなく、難聴も抱えていることが分かりました。

毛繕いができなかったのは、水頭症の影響で頭をじっとさせることができなかったためでした。 そういえば、葉ちゃんは真っ直ぐ歩くこともできず、 食事もままならず、頭をかくような動作もうまくできませんでした。

猫の毛繕いはおしゃれだけでなく、汗をかけない猫にとって毛をしめらせることで体温を下げる重要な役割もあります。そのようなことさえできない猫…大学病院の医師からは長く生きられないのではないか、と言われたそうです。

水頭症を改善する手術も考えましたが、できるだけ自由に暮らしてほしいとの思いから、薬を飲む内科的な治療に取り組むことにしました。効てんかん薬と浸透圧利尿剤を服用したところ、今ではてんかんも起こさず、とても元気に暮らしています。

   ◇   ◇

保護して水頭症が分かったころの様子について、楠さんはあらためてこう振り返ります。「体調も悪かったと思いますが、精神的にも安定していなかったと思います。 24時間ずっと徘徊しているような状態で…。寝ていても体をずっと動かしていて、なにか発作を起こしているようでした」

耳がうまく聞こえないことも、不安定さに拍車をかけました。「大丈夫だよ、と声をかけてあげたくても、耳が聞こえないから伝えられない。なでてあげたくても、後ろから体を触るだけでとても驚かれたり…普通の意思疎通ができませんでした」。一方、葉ちゃん自身も、自分の声が分からないからか、ずっと鳴き続けていました。

週に何回もてんかんのはげしい発作を起こしていた時期もありました。泡を吹きながら、全身のけいれんが続きます。けがをしないように体を押さえますが、飛び跳ねてしまうことも。そのような時は発作にそなえて、リビングに布団を敷き詰めて寝ていました。

「飼っているこちらも世話をするのに疲れてしまって…1、2年ほどは睡眠不足だったと思います」…しかし、時間がたつにつれて、すこしずつ葉ちゃんと楠さん家族とは心が通い合うようになってきます。後ろから触っても驚くこともなくなりました。葉ちゃんが打ち解けるのにあわせて、薬の効果も現れるようになってきました。

平衡感覚の弱さは残り、今でも高いところに登れません。歩く様子はまだよたよたとしていたり、動くものを目で追うことも苦手です。しかし、4年たった今、外に興味を示したり、おもちゃで遊んだりするようにもなりました。 普通の子よりゆっくりですが、できることを増やしています。初めて保護猫を飼ったという楠さんも、葉ちゃんと過ごすことで「いろいろなことを勉強させてもらった。ありがたい」と話します。葉ちゃんも楠さんも、しっかりと歩み続けています。

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