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九州温泉ねこめぐり第11回 鹿児島・指宿「ペンション菜の花館」の花子

 鹿児島県指宿市の温泉街中心部から車で約20分。大和田靖憲(やすのり)さん(77)、仁子(きみこ)さん夫妻が営む「ペンション菜の花館」は薩摩半島の最南端にあり、目前に広がる開聞岳の絶景と、自噴の天然温泉が自慢のアットホームな宿だ。宿泊客がやってくると、三毛猫の花子(メス、推定15歳)が、ペンションの玄関先や駐車場で出迎えてくれる。

 「ペンション菜の花館」は1995年にオープン。すぐ目の前には薩摩富士と呼ばれる開聞岳(標高924メートル)がそびえ、宿からは夕日や満天の星空が展望できる。敷地内に湧く源泉かけ流しの湯は塩化物泉で、塩分濃度が高いが、「湯あがり時に肌がベトベトせずサラサラになります。保湿効果が高く、美人の湯です」と仁子さん。温泉をゆっくり煮詰めて抽出した、ミネラル含有量の多い「指宿 温泉の塩」も販売しており、こちらもおすすめだ。

 花子は今から15年前、生まれてまだ間もないころ、ペンションの玄関にひょっこり現れたという。「その3年前に、ふじこちゃんという生後数カ月の三毛猫を半年間だけ飼っていたんです。その子もここにふらっと現れた子。可愛がっていたのですが、ある日突然いなくなってしまったんですよ。探しても見つからず寂しい思いをしていたら、花子が現れてね。体の大きさや毛の色がふじこちゃんにそっくりだったので、生まれ変わりじゃないかってびっくりしたんです」(仁子さん)

 不思議な縁を感じた仁子さんは、花子を保護し、宿で飼うことに。数年が経ったころから、花子は「自分も何かしなきゃ」と思ったのか、夫婦がいつもするように、駐車場までお客を出迎えたり、部屋までの案内をかって出たりと、看板猫として宿泊者におもてなしをするようになった。若いころは庭で虫や鳥をつかまえるなど活発だったが、最近は歳をとり、落ち着いた。病気もせず健康で、名物のカツオのたたきや鰹節が大好物。仁子さんはあげすぎず、少量だけ与えるよう心がけている。

 ご主人の靖憲さんは、実は猫があまり好きではなく、どちらかといえば犬派だった。だが、花子を飼うようになり、夜、ベッドの上にやってきては甘える花子の姿が次第にいとおしくなり、まるで娘のように花子を可愛がるようになった。仁子さんは「えさがほしいときは私、ねんねするときはおとうさんに甘えるんですよね。花子がきてから主人は猫好きになり、この子なしではいられなくなってしまいました」と笑う。

 そんな靖憲さんが、今年2月3日朝、食事の最中に突然倒れた。脳梗塞だった。すぐに救急車で運ばれ、一命はとりとめたものの、口に管を入れられ、安静の状態が2カ月ほど続いた。

 「主人が倒れたとき、花子の鳴き方は尋常じゃなかった。けたたましく鳴くという感じでね。その後、いつも主人と一緒に寝ているベッドをのぞき、主人がいないとわかると、それっきりもうベッドには寄り付かなくなってしまいました」(仁子さん)

 現在、3日に1度、仁子さんは鹿児島市内の病院で療養中の靖憲さんの見舞いに出かける。「おとうさんのところに行ってくるからね。ちゃんと待ってるのよ」と仁子さんが花子に声をかけると、「おとうさん」という言葉がわかるらしく、靖憲さんが帰ってくるかもと、仁子さんが宿に戻ってくるまで、同じ場所でじっと待っているそうだ。

 仁子さんは、そんな花子の姿を携帯で写真に撮り、病室の靖憲さんに毎回、「今日の花子よ。早くだっこしたいでしょう?」と話しかけながら見せている。

 「花子の写真を見せると目の色が一瞬変わるんですよね。当初は寝たきりでしたが、いまは言葉も少ししゃべれるようになり、リハビリをがんばっています。先生も『短期間でこんなに回復するなんて』と驚くほど。早く戻って、花子を抱きしめたいという気持ちが、何らかの影響を与えているのは間違いないと思います」(仁子さん)

 靖憲さんが入院して以来、予約客には全て断りを入れ、現在に至っている。「花子に会いたい」と定期的にやってくる常連客も多数おり、ペンションの再開が待たれる。「もうすぐ鹿児島市内から指宿の病院に転院する予定なので、時間に余裕ができそう。GWあたりから宿泊のお客様を少しずつまた受け入れていけたら思っています」と仁子さん。花子も花子のファンも、靖憲さんの復帰を心待ちにしている。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)*「ペンション 菜の花館」鹿児島県指宿市山川岡児ケ水1723-3 電話0993-35-2007

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