【元自衛官が解説・営業に使える戦闘技術】相手をさらに詳しく知って、いよいよ攻撃へ

 新規のクライアントを開拓してパートナーになってもらい、いかにして自社(自分)の利益に結び付けるか…。営業活動は、自衛隊の戦闘部隊が敵部隊を攻撃する行動パターンとよく似ています。偵察、威力偵察を経て敵の戦力を把握できたとしても、攻撃の前にはまだまだ相手のことをよく知る必要性があるようです…。

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 敢えて危険を冒して威力偵察を行い、敵の戦力について「だいたい、これくらいかな?」と概略を把握できたとします。営業の現場だと「話を聞いてくれそうだ」とか「ぜんぜん相手にしてくれない」という感触をつかんだ段階でしょうか。

 この時点では、我が部隊はまだ「集結地」にいます。集結地とは、敵から離れた比較的安全な場所で、次の行動に備えて武器や弾薬を準備したり、腹ごしらえや休養を取ったりする地域のことをいいます。営業でいえばプレゼン用の資料作成をしたり、サンプルを準備したりしている段階に当たります。

 このあといよいよ攻撃行動に移るのですが、その前にもうひとつ、やることがあります。

 敵の居場所は分かったし、戦力の見当もつきました。たとえば戦車で撃ってみたら戦車で撃ち返してきたので、敵には戦車があること、小型の対戦車火器も飛んできたから、あるていど対機甲戦闘のできる部隊だなということが分かったとします。では、その戦車は「どこ」に隠れているのか。その数は? 対戦車火器はどこにある? 兵士は何人いて、どんな武器をどこに配置しているのか? 障害物はあるのか? 地雷は? など、これらは威力偵察でも知り得なかった情報ですし、これから攻撃を仕掛ける際に必要な情報です。それを直接目で見て確かめるのが「斥候(せっこう)」です。

 余談ながら、よく偵察と斥候は同じと思われがちですが、似て非なるもの。ひらたくいえば、偵察は「敵を探す」ことが目的で、斥候は居場所が分かっている敵の「より詳しい情報を取る」ことが目的です。つまり見込み客を選別して優先順位を付け、より詳しくリサーチする段階が斥候にあたるのではないでしょうか。

 さて、斥候は偵察と同様、生還して情報を持ち帰ることが使命です。ですから、運悪く敵に見つかったら、できるだけ戦闘を避けてその場を離れます。とにかく生き延びて、情報を持ち帰ることが最優先です。

 指揮官は、斥候が持ち帰ってきた情報に基づいて作戦を立てますから、斥候兵は見たまま・聞いたままを指揮官に報告しなければなりません。「たぶん……」とか「おそらく……」は禁物。たとえば敵陣地の目前で、話し声を聞いたとします。声の主は見えません。話し声の感じから「たぶん2~3人じゃないかな」と思っても、報告するときに「たぶん2~3人いると思います」では斥候兵失格です。このとき知り得た事実は「複数の敵兵が話す声を聞いた」ということだけです。繰り返しますが、報告はあくまで「見たまま・聞いたまま」が鉄則です。

 ビジネスの世界では、よく「キーマンを探せ」といわれます。「この人を通さないと話が決まらない」という影の実力者がいる場合、形式上の管理職にいくら接触しても話はなかなか進みません。担当部署の課長よりも、現場をよく知るベテラン係長の判断がすべてということがよくあります。つまりこれが主攻正面であり、戦力を集中するポイントということになります。

 作戦が決まったら「命令下達(めいれいかたつ)」があり、いよいよ前進開始です。指揮官が立てた作戦を部隊に伝えることを命令下達といいます。すなわち営業課長から「GO」が出て、細々した指示が出される瞬間だと思ってください。実際の命令下達はもっと複雑ですが、それを書き始めると収拾がつかなくなるので、ごく単純にしています。(神戸新聞特約記者・平藤清刀)

 ◆平藤清刀(ひらふじ・きよと)ブックライター。1962年、大阪府出身。陸上自衛隊~警備会社勤務を経て現職。ビジネス書、取材記事、著名人のインタビュー記事などを手掛ける。著書「自衛隊ウラ話 喋り出したら止まらない」「自衛隊vs米軍もし戦わば」「自衛隊の掟」ほか。

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