【野球】令和初ノーノー達成の今秋ドラフト候補の早大・伊藤樹が超えるべき存在とは? 全国準Vの中学時代から友人の阪神・森木との絆
今秋ドラフト候補の早大・伊藤樹投手(4年・仙台育英)が19日の明大2回戦で東京六大学リーグ令和初のノーヒットノーランを達成した。中学時代に全国準優勝の実績を持ち、仙台育英では3年連続で甲子園出場。確かな歩みでエース街道を進んできた男には、超えるべき友の存在があった。
伊藤が投手としての「生きる道」を話す時、登場する人物がいる。
「真っすぐの速さは大事だけど、とらわれてはいけない。中学の時から同年代に球が速い子たちがいた。森木が軟式で150キロを投げたりしていた。そんな人たちを前に球速にフォーカスしようとは思わなかったですね」
名前を挙げたのは、阪神の21年度ドラフト1位・森木大智投手(21)。中学軟式野球界でともにトップを走ってきた。仙台育英の系列校・秀光中3年夏には全国大会の決勝で高知中の森木と投げ合い、延長11回の末に敗戦。辛酸をなめた相手である一方、互いを高め合う友人でもある。
両校は長年交流があり、中2冬に高知で開催された交流試合に参加した際、伊藤が森木の実家にホームステイ。それをきっかけに仲を深め、現在まで絆は不変だ。今年3月には、関西遠征の際に久々に再会したという。
投手としては正反対。中学で軟式史上最速の150キロをたたき出した森木は、プロの世界でも直球を軸に押す剛腕。伊藤も最速は152キロを誇るものの、緻密な制球力で多彩な変化球をコーナーに投げ分ける技巧派に近いタイプだ。かねて「速い球を投げることにシフトすれば、投げられるとは思う。でも、それだと生きる道が狭すぎる、数字に見えない部分が光る直球を投げたい」と目指すべき姿を語っている。
一方の森木は苦悩の中にいる。プロ1年目に1軍デビューも、その秋の故障が影響し狂いが生じた。2年目以降は1軍登板がなく、今季から育成契約に。支配下復帰を目指し、試練の日々を送っている。「大智は繊細なので」と友の素顔を笑って明かす伊藤。舞台は違えど順調に歩みを進めているが、立場が逆転したとは思っていない。
「プロに行って活躍した時に、やっと大智を超えられたと言える」
見据えるのは同じ舞台だ。森木も「負けないように頑張りたい」と再起を誓う。ともに口をそろえる理想像は「勝てる投手」。異なる2人の道がプロの舞台で交わることを心待ちにしたい。(デイリースポーツ・間宮涼)
◆伊藤樹(いとう・たつき)2003年8月24日生まれ、21歳。秋田県美郷町出身。右投げ右打ち。177センチ、84キロ。6歳から仙南東スポーツ少年団で野球を始め、小学6年時には楽天ジュニアでプレー。秀光中教校では軟式野球部で3年時に全国準優勝。仙台育英では1年春からベンチ入りし、20年の交流試合を含め3年連続で甲子園出場。早大では1年春にデビュー。3年時には春秋ともにベストナインを受賞し、大学日本代表に選出された。50メートル走6秒6、遠投110メートル。