【スポーツ】宇野昌磨さん「どん底」を救ったランビエルコーチとの物語 情熱的で「かけがえのない存在」になった理由

 フィギュアスケート男子の五輪2大会連続メダリストで、22年、23年世界選手権王者の宇野昌磨さん(26)が14日、都内で現役引退会見を行った。華麗な競技人生の終盤をともに歩んだ、スイス人で元世界王者のステファン・ランビエルコーチとの物語を振り返る。コーチ不在の危機を救ってくれた恩人が、「かけがえのない存在」になった理由とは-。

 「ワンダフォー!」。

 興奮したランビエルコーチは、何度も、何度も繰り返しながら宇野さんを抱きしめた。23年世界選手権、さいたまスーパーアリーナで2連覇を達成した宇野さんは、コテンと銀盤に転がって破顔した。リンクから引き上げると、歓喜するコーチが待っていた。

 苦境を乗り越え、二人三脚で歩んできた。幼少時から指導を受けてきた山田満知子、樋口美穂子両コーチの下を離れ、異例のコーチ不在で臨んだ19-20年シーズン。同年のフランス杯では初めてグランプリ(GP)シリーズの表彰台を逃す8位。得点を待つキスアンドクライで、1人で涙するほど追い込まれていた。

 「スケート人生のどん底」に手を差しのべてくれたのがランビエルコーチだった。元世界王者の情熱的な指導で「スケートの楽しさを改めて知った」と、失っていたモチベーションを取り戻した。そして、ともに挑んだ22年北京五輪では、個人銅メダルと団体銀メダルを獲得した。

 ランビエルコーチは熱い。リンクサイドでは祈るように試合を見守り、時には両手を大きく広げて喜ぶ。23年のNHK杯で、3種類4本の4回転がすべて「q」(4分の1回転の不足)と判定されたことがある。宇野さん本人も疑問を投げかけていたが、コーチはもっと燃えたぎっていた。帰りのタクシーの中でステファンは号泣し、言った。「もう(GP)ファイナルに出なくてもいい」-。

 教え子のために憤った。大量の涙を流し、寄り添い、親身になってくれる。こんな人は他にいない。それだけ「かけがえのない存在」なのだと、宇野さんは言う。

 「ステファンに喜んでほしい」-。取材現場で幾度も聞いた言葉だ。競技会の結果には、たとえ五輪であろうと自然体で臨んでいたが、演技の内容にはこだわっていた。引退会見で印象的な試合を聞かれると、初制覇した22年世界選手権を挙げ、「ステファンが喜んでいる姿はすごく、鮮明に記憶に残る思い出」と述懐した。師の心を奮わす演技がしたい。それがモチベーションだった。

 昨年末の全日本選手権の後、2年前から考えていた現役引退への思いが固まった。「次の大会で現役を引退しようと思う」と伝えた。最後の世界選手権ではショートプログラム(SP)で今季世界最高点を師に贈った。フリーの後、2人はやりきった、穏やかな表情で抱き合った。

 「誇らしい」と目尻を下げる師の名前のスペルは、いまだに書けない。そんな愛嬌(あいきょう)あふれる一面を持ちながらも、ひとたび曲がかかれば、指先まで使った演技で見る人の心を引き込む特別な引力を持っている。プロ転向の先でも、人々を、そして師を笑顔にさせる唯一無二の演技を見せてくれるのだろう。(デイリースポーツ・田中亜実)

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