【スポーツ】消える“高校最後の夏” そして“冬”は…現場教師の思い

 1963年に始まった全国高校総体(インターハイ)の史上初となる中止が発表された。新型コロナウイルスの感染拡大を受け、全国高体連が臨時理事会を開き、全会一致で決めた。これを受け、高体連には属さない日本高野連が主催する、夏の全国高校野球選手権大会の開催可否への影響も必至と見られている。

 現場の高校教師は今回の決定をどのように受け止めているのか。旧校名の伏見工時代に4度の花園制覇を誇る高校ラグビー界の名門、京都工学院の砂田浩彰校長は「大前提として、頑張ってきた生徒のためにやらせてあげたいという思いはある。しかし、命と引き替えに大会をやるわけにはいかない。高体連も苦渋の決断だったと思うし、現状で判断するなら賢明な判断」と理解を示す。

 「高体連は4カ月先の大会の中止を早めに判断してくれたので、われわれは次の手だてを考えないといけない」と前を向く。「高校生活最後の大会は中止になっても、今後も競技を続ける生徒はいる。何らかの形で集大成のような企画はできないのか」と思案をめぐらす。

 同校ではラグビー部のほかにボート部も全国レベルの実績を持つ。生徒の中には競技成績を通し、進学や就職先が決まるケースも少なくない。「将来のことを考え、新しい目標、次の目標に切り替えさせるよう、話していくことができれば」と苦しい胸の内を語る。

 しかし、現状では大きな問題が立ちはだかっている。教師がいくら生徒たちのことを考えても「今は直接会うことができない」のだ。緊急事態宣言を受けて休校措置が取られているため、4月からの新学期は通常の授業ができていない。加えて5月末までの宣言延長が正式決定した。もちろん、部活動も集団での練習は休止状態が続く。登校日も設定できず、同校では1人1台所持しているタブレットを通して、教師と生徒、顧問と部員がコミュニケーションを図っている。

 夏の甲子園の開催可否はまだ発表されていない。ただ、同時期のインターハイが中止になったため、高校野球も今春のセンバツ同様、全国大会開催は厳しいだろうとの見方が出ている。砂田校長は伏見工時代に長く野球部の指導にも携わった。現在は京都府高野連の会長を務めるが「日本高野連の決定を待つしかない」と起こり得るあらゆる事態を想定しながら、対応策を熟考する日々だ。

 現状では8月の高校総体や甲子園大会が注目を集めているが、サッカー、ラグビー、バレー、バスケット、駅伝など冬に大会を控える競技も開催が保証されているわけではない。全国大会は12月もしくは1月でも、例年通りなら地方大会は9月から始まる競技もある。

 全国の多くの運動部が夏休み中に予定している強化合宿などについても実施できるか不透明だ。3年生にとって最後の公式戦とはいえ、練習や準備が不十分なまま臨むことになれば、大きなケガにもつながりかねない。夏の甲子園の結論が出れば、次は冬の競技が議論の対象になることが予想される。また、事態が大きく変わる可能性がある9月入学の議論の行く末は現場の教師や生徒たちも注目している。

 「今の状況を『生徒がかわいそう』で終わらせるのではなく、われわれができることからやっていく。不安材料ばかりを並べるのではなく、やれることからやっていく。心配事を一つ一つクリアしていくしかない」。砂田校長は部活動に限らず、すべてに通じる話として力説する。

 「今は一日も早いコロナの終息を待つしかない」と言いながらも、決して待ちの姿勢だけではない。やまない雨はないし、明けない夜もない。現場の教師は生徒たちのことを思いながら、前例のない緊急事態と懸命に向き合っている。(デイリースポーツ・斉藤章平)

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