【ライフ】「ペット信託」で人もペットも幸せに 飼い主のもしもに備えて契約

愛猫を抱く服部薫さん=古賀市内
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 「もしも自分が死んだら、“この子”はどうすれば…」。そんな漠然とした不安を抱えながら、最愛のペットと暮らすお年寄りは少なくない。何の準備もしておかなければ、最悪の場合、ペットは路頭に迷って殺処分されてしまうことも。問題を解決する方法として、福岡の行政書士の服部薫さん(34)が「ペット信託」を開発した。服部さんはペット相続が専門で、里親募集型保護猫カフェも営む。「ペット信託が普及すれば、飼い主は安心して過ごせますし、不幸なペットを減らすことにも繋がり、人間もペットもともに幸せになれます」と力を込める。

 自身も8匹の猫を飼っている服部さんは、2012年、「行政書士かおる法務事務所」(福岡市東区)を開設。信託法に基づいたペット信託のしくみを構築し、国内で初めてペット信託契約を手がけた行政書士だ。

 ペット信託とは、飼い主が、ペットに残したい財産(飼育費)を管理者に信託すること。その際、新しい飼い主も決めておく。飼い主が死亡したり病気でペットの世話ができなくなったりすると信託がスタート。新しい飼い主にペットが引き渡されるとともに、信託した財産から管理者が飼育費を支払っていく。さらに、ペットが新しい飼い主のもとで元気に暮らしているか、残した財産が飼育費としてきちんと使われているかなどをチェックする信託監督人(契約書を作成した行政書士、司法書士が就く)を置くことができる。「飼い主がいなくなったあと、残されたペットが幸せに生涯をまっとうするための場所と資金を事前に準備しておくしくみです」と服部さんは説明する。

 たとえば、猫を飼っている80代の女性のこんなケースをみてみよう。夫と死別し現在は一人暮らし。近所に長女家族が住んでいるがペットを飼う経済的余裕はなく、また、ペット飼育不可マンションに住んでいるため、猫は引き取れない。女性が猫を引き取ってくれる人が他にいないかを探したところ、友人Aさんが「私が引き取って世話をする」と約束してくれたとする。

 「この場合、80代女性は長女を管理者とした信託契約を結び、信託した財産(飼育費)は長女が管理できるようにしておきます。女性に何かあったとき、猫は新しい飼い主の友人Aさんの元へ。長女はAさんに飼育費を月々支払います。そして、信託監督人が支払いのチェックやペットの見守りを行うのです」(服部さん)。

 これまでに服部さんが扱った契約は約20件とまだ少ないが、契約した人からは「これで病気やけが、認知症、死亡など、自分にもしものことがあったときでも安心」と好評だ。

 服部さんによると、最近はこんな人も少なくない。「『新しく猫を飼って余生をともに過ごしたいけれど、私が先に死ぬかもしれないから飼わない』という高齢者も結構おられるんですよ。ペット信託で備えておけば、そういう方々も心置きなく新しい猫と暮らせます。飼い主が亡くなって引き取り手が見つからない犬猫は、殺処分されてしまうことが多いのが現状です。飼い主さんが元気なうちにこうした準備をしておけば、悲しい運命をたどる犬猫を減らすことになり、人間もペットもともに幸せになれるのではないでしょうか」と服部さんは力説する。

 大切なペットのためにどれくらいの財産を残し、誰に託すかは人それぞれ。相談すれば、各人の事情や希望に応じた最善のしくみを提案してくれる。服部さんは2014年、ペット信託を全国に広めるため、「一般社団法人ファミリーアニマル支援協会(FASA)」を設立。「全国47都道府県に、ペット信託に詳しい行政書士や司法書士が数人いるという状況を築くのが今の目標です。その方々が中心となり、それぞれの地域で普及活動を行っていってもらえれば」(服部さん)。

 服部さんが昨年4月、福岡県古賀市で「里親募集型保護猫×古民家Cafe Gatto(ガット=イタリア語で猫の意味)」をオープンさせたのも、「飼い主の事情で行き場を失った猫の保護、預かり(有料)、新しい飼い主との出会いの場をつくり、猫の飼育についての啓蒙活動や情報交換などができれば」との思いからだ。カフェには保護猫の飼育スペースと、猫たちを眺めながら飲食ができるカフェスペースがあり、希望すれば猫たちと触れあうこともできる。収益の一部は猫の医療費や飼育費などにあてられている。

 築90年の古民家を改修した、昔懐かしい雰囲気が漂う店内には、現在約20匹の保護猫たちがマイペースで暮らしている。服部さんは「ここに来られたのがきっかけで、新しい飼い主さんになってくれた方もおられます。新しく猫を飼うなら、ペットショップではなく保護猫を、という選択をして頂ける方をもっと増やしていきたいです。将来的には、動物病院併設のもう少し大きい保護猫カフェや、猫と住めるマンションもつくりたい」と夢を膨らませている。猫たちとふれあいながら、自分と愛するペットの未来について、思いを巡らせてみては。(デイリースポーツ特約記者 西松宏) 

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