山間の村人がつくる小さなテレビ局 NHKドラマ化、住民ディレクターとは

東峰村役場で会見した(左から)藤野涼子、寺島しのぶ、山崎銀之丞、美保純=10月25日
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 村の有志みずからがカメラを手に取材し、番組制作を行っている福岡県朝倉郡東峰(とうほう)村の村営ケーブルテレビ局「東峰テレビ」の取り組みが、NHK福岡放送局によってドラマ化されることが分かった。地域ドラマ「たからのとき」(2017年1月下旬、総合テレビ九州・沖縄地方で放送予定)として、女優寺島しのぶが主演を務める。村民が自発的かつ楽しみながら番組制作に携わり、地域作りに寄与するあり方は全国に広がりつつあり、ドラマも話題を集めそうだ。

 東峰村は福岡と大分の県境の山間にある人口約2300人の小さな村。美しい棚田があり、高取焼や小石原焼の窯元約50軒が集まる焼き物の里として知られる。東峰テレビは2010(平成22)年11月に開局。熊本の民放勤務を経て同局の総合プロデューサーに就いた岸本晃さん(63)を中心に、住民が主体となって企画、取材、編集をし、村の番組制作を行っている。「村民みんなでつくるテレビ局」だ。

 ほうれん草などを栽培する村の農家・梶原京子さん(62)は、開局当初から番組づくりを手伝っている。「最初はパソコンを習いたいと思って行ったんですが、岸本さんから『押せば映るから』とカメラを手渡され、全くの素人ながら、村のイベントの取材に出かけたり、スタジオでしゃべったりするうちに、だんだん楽しくなってきて」と笑顔で話す。

 「カメラを片手で回しながらインタビューをしていたら話に夢中になってしまい、相手の顔が半分しか映っていなかったという失敗もあった」と頭をかく梶原さんだが、現在は、番組づくりを担うベテランスタッフの1人だ。

 梶原さんのように自分で撮影し、映像制作をする地域住民のことを、岸本さんは「住民ディレクター」と呼ぶ。村では現在、小学生から79歳のお年寄りまで、およそ100人が活動している。岸本さんは「たとえば、昔から伝わる郷土料理はどう作るかとか、焼き物を作っている人が創作現場のレポートをするとか、農家が野菜の栽培法を紹介するというのでもいい。その土地で暮らしている住民みずからがカメラを手に、自分たちの持っている豊かな知恵や文化を発信し、番組づくりという実践を通じて、企画力や表現力、技術を養っていく。それが住民ディレクターの取り組みです」と解説した。

 いまはネットやスマホ全盛の時代。どこか外に出かけていかなくても、いま住んでいる場所で容易に情報をやりとりできる環境が整っている。岸本さんは「住民ディレクターが育っていって、コンテンツが売れるようになれば、副収入を得たり、起業したりといったこともできるでしょう。押し付けではなく、地域の人たちが自発的に楽しみながら長く続けていくことが、地域の活性化に繋がっていくはずです」と熱く語った。

 1996(平成8)年に岸本さんが提唱したこの「住民ディレクターによる地域づくり」の手法は、東峰テレビだけにとどまらず、いまや全国に広がっている。15(平成27)年12月には、同局をキーステーションとして、47都道府県にいる全国各地の住民ディレクターをネットで結んだ同時中継番組を放送。地方創生のあり方について話しあった。

 村の番組はどれも手作り感とほのぼのさに溢れている。「村民book」という番組では、たとえば「うちの庭できれいな花がいっぱい咲いたから撮りに来て」というおばあさんや、昔のアルバムの中の1枚の写真を見ながら、思い出話に花を咲かせるおじいさんなども登場。フェイスブックなどSNSが使えないというお年寄りに対しては、他の村民スタッフが自宅まで訪ねて取材する。放映されると、出演した人もそれを観た家族も大喜び。「親戚に配るからDVDに焼いてほしい」と局までやってくる人もいるとか。また、近隣地域の人たちがスタジオに集まり、住民がスマホやビデオを駆使して現地取材したVTRをみながら、地域の魅力を発信する「ふらっと!!あさくら」も人気が高い。

 NHK福岡放送局が現在、制作中の地域ドラマ「たからのとき」は、そんな同局が舞台の物語だ。ロケは10月12日から同月末まで、15日間にわたって東峰村を中心に行われ、エキストラオーディションで選ばれた村の人たち30人も出演。実際の東峰テレビの局舎が、ドラマでは「とうほう村テレビ」と名を変えて使われ、局内でのロケも行われた。

 寺島しのぶ演じる主人公の室井たからは、「とうほう村テレビ」で住民ディレクターとして活動している。局の立ち上げから関わり、親友の真知子(美保純)とともに、慣れない撮影や生放送で大失敗をしながらも番組づくりに奮闘する。そんな母の姿が理解できず、反発する高校生の娘・みのり(藤野涼子)。妻のたからを温かく見守る夫の啓介(山崎銀之丞)。やがてある異変があらわになり、母と娘の心がゆさぶられていく、というストーリー。物語自体はフィクションだが実際にあったことを題材にしている。

 前出の住民ディレクターの1人、梶原さんは、ロケで女優やプロの撮影スタッフを目の当たりにして、「役者さんがどんなことに気をつけて演じているか、撮影のときのカメラワークなど、学ぶことが多く、これからの番組づくりに生かしていきたいです」と、おおいに刺激を受けた様子。

 澁谷博昭・東峰村長は、「深い感銘とワクワク感をもってなりゆきを見守っていました。村の高齢化率は40%を超え、年々人口が減少するなか、こうして村の情報発信ができることは非常にありがたく、誇りに思います」と話し、ドラマの放送に期待を寄せた。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)

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