「北京五輪・ノルディックスキージャンプ・男子ラージヒル・決勝」（１２日、国家スキージャンプセンター）

　男子個人ラージヒル（ヒルサイズ＝ＨＳ１４０メートル）決勝で、今大会ノーマルヒル金メダリストの小林陵侑（２５）＝土屋ホーム＝が、１４２・０メートル、１３８・０メートルの合計２９２・８点をマークし、銀メダルを獲得した。史上４人目の個人２冠はならなかったが、９８年長野五輪の船木和喜に並ぶ、個人２種目でのメダル獲得。マリウス・リンドビク（ノルウェー）が２９６・１点で金メダルとなった。

　史上４人目の個人２冠の偉業には届かなくても、小林陵の表情は晴れやかだった。表彰式で受け取った大会マスコット「ビンドゥンドゥン」をビブスの胸からのぞかせながら訪れた取材ゾーン。「う～ん、難しいっすね。すごくうれしい気持ちと金メダルを逃したちょっと悔しい気持ちと…。でも２本ともいいパフォーマンスができた。リンビクもいいジャンプをした。今日は完敗」。わずか３・３点差、飛距離にして約１・５メートルの激闘。頂上決戦の主役の１人を務め、胸を張った。

　中国の夜空に、再び美しい放物線を描いた。２冠の期待を担う中で、ラージヒルへの適応には苦しんだ。予選は９位と低調。「もうちょいっすね」と首をひねっていた。それでも異次元の修正能力を発揮。１本目、この日の最長不倒となるヒルサイズ越えの１４２メートルを飛び、「フォウ！」とガッツポーズとともに首位に立った。２本目もヒルサイズに迫る１３８メートル。力は尽くした結果だった。

　失意のまま、中国の地を去った同級生の分も飛んだ。７日の混合団体。スーツ規定違反により１本目が失格となった高梨沙羅はメダルを逃した責任を感じながら、中国を後にした。検査態勢を巡り、失格者を出した国を中心に騒動が過熱する中、高梨は自身のインスタグラムで「私の失格のせいで皆の人生を変えてしまった」と悲痛な謝罪を繰り返し、自身の進退を検討することまで示唆している。

　小林陵と高梨は同級生。幼い頃からジャンプの大会で一緒になってきた盟友だ。今季、欧州遠征で小林陵のヘルメットがロストバゲージになった時には、スポンサーが同じ高梨のヘルメットを借りて試合に臨んだこともある。高梨は小林陵を「私と真逆なタイプかな。身体能力はズバ抜けているものがありますし、やりたいことを体現することが上手。刺激をもらえてますし、私はコツコツしないとできないタイプ。うらやましいなと思いながら活躍を見てます」と話していた。この日、小林陵が見せた魂のジャンプは、きっと高梨の心に新たな刺激を与えたはずだ。

　２冠はならなかったが、９８年長野五輪の船木和喜と並ぶ金メダル１つ、銀メダル１つの個人最高成績に並んだ。暗い影が差し込んだ日本ジャンプ界を、ニューヒーローが再びメダルの輝きで照らし出した。

　【小林陵侑アラカルト】

　▼生まれ＆サイズ　１９９６年１１月８日、岩手県岩手郡松尾村（現八幡平市）出身。１７３センチ、６０キロ。

　▼４きょうだいの次男　同じく平昌、北京２大会連続五輪代表の兄・潤志郎（３０）、姉の諭果（２７）、弟の龍尚（２０）もスキージャンプ選手。

　▼競技歴　元クロスカントリー選手だった父宏典さんと、兄の影響もあり、５歳でスキーを始め、小学校１年生でジャンプを始める。高校まではノルディック複合に取り組んでおり、全国中学選手権で複合とジャンプの２冠に輝く。師匠と仰ぐ葛西紀明の誘いを受け、土屋ホームに入社。初出場だった１８年平昌五輪はノーマルヒルで７位入賞。１８－１９年、２１－２２年スキージャンプ週間総合Ｖ２。Ｗ杯通算２６勝は日本男子歴代最多。

　▼特技・マイブーム　スニーカー収集。「毎週買いたい」というほどで、最近は「ＴＲＡＶＩＳ　ＳＣＯＴＴ×ＮＩＫＥ　ＡＩＲ　ＪＯＲＤＡＮ　１」を約２０万円で購入。音楽やゲーム、ゴルフも趣味。

　▼ユーチューバー　２１年からＹｏｕＴｕｂｅのチャンネルを開設し、競技の裏側や普段の生活、趣味などを紹介。「少しでもジャンプの事を身近に感じてもらい、メジャーなスポーツにしたい」。