信長の野望……実は堅実? 尾張の一大名が「天下布武」、一見“イタい”その意味は【豊臣兄弟!コラム】

仲野太賀主演で、豊臣秀吉の弟・豊臣秀長(小一郎)が、兄とともに天下一統を果たすまでを描いていく大河ドラマ『豊臣兄弟!』(NHK)。

3月15日放送の第10回「信長上洛」では、織田信長が足利義昭をともなって京に上り、ついに歴史のメインステージに立つことに。そのときに信長が掲げた「天下布武」の本当の意味と、この事態を招いた「天下」の混迷ぶりについて振り返ってみた。

■ 明智光秀が織田信長を訪ねる…第10回あらすじ織田信長(小栗旬)の元に、暗殺された足利将軍の弟・足利義昭(尾上右近)の使者として、明智光秀(要潤)が訪れる。光秀は、現在三好一族が支配する京に上洛し、義昭を新たな将軍にしてほしいと願い、信長はそれを即座に承知した。

さらに、木下藤吉郎(豊臣秀吉/池松壮亮)とともに光秀をもてなした竹中半兵衛(菅田将暉)は、光秀の従者が義昭本人だと見破り、義昭も光秀も初めて指摘されたことに感服した。

信長は、同盟を結んだ徳川家康(松下洸平)や浅井長政(中島歩)の兵とともに上洛し、敵を追い出して京を制覇した。15代将軍となった義昭は信長を副将軍に任命しようとするが、信長はそれを断り、各地の大名に義昭への拝謁をうながす文を出すことで、敵味方をあぶり出そうとする。

そして、小一郎たちが京都の人々にご祝儀の銭を撒いていた頃「天下布武などただの通り道。この日の本を一つにする」と、天下一統の野望を口にした。

■ 一大名が「天下統一」…信長はイタくない?かつての大河ドラマは、歴史小説を原作としたものが多かったこともあってか「史実は史実、ドラマはドラマ」という感じで、良くも悪くも史実にとらわれず、作品のテーマに沿っていたり、あるいは「そっちの方がオモロイやん」に振り切った方を選ぶことが多かったように見えた。

しかし、近年の大河ドラマは、できるだけ史実に忠実に、しかも最近になって覆された説を積極的に採用し、歴史ファンに「そう来たか」と思わせるケースが増えたように思う。

『豊臣兄弟!』もその例に漏れず、クレジットで豊臣秀長の名前を、1584年まで名乗っていた「長秀」とするなど、かなり史実寄りに作られている。

この第10回で逸脱したことがあったとしたら、史実では秀吉に仕えるのはもう少し先となる竹中半兵衛が、すでに秀吉の元で名推理を働かせたぐらいか。そして、今回冒頭シーンで「天下布武」の説明がされた時は、特に戦国強火担たちが「やっとそこに触れてくれた!」と歓声を上げるような状態となった。

「天下布武」は数年前までは「武力によって天下を取る」という、信長の天下統一のスローガンのように思われていた。

しかし、冒頭の解説通り、ここで言う「天下」は日本全国ではなく、足利幕府の支配地域だった畿内(現在の大阪府+奈良県&京都府と兵庫県の一部)だけを示している。つまり「天下布武」はあくまでも「畿内を武士(幕府)がきっちり治める状態に復活させます!」という、政治公約めいたものだったわけだ。

確かに、尾張すらやっと最近統一できたばかりで、そこから増やしたのはまだ隣国1つだけという状況で、一足飛びに「次は日本をゲットだぜ!」と言い出すのは、冷静に考えたら誇大妄想というか、有り体に言えばイタい人だ。

信長が真に全国制覇を視野に入れたのは、足利幕府を実効支配していた三好家を追い出して「天下布武」を実現し、足利義昭の信頼を得て最高権力にグッと近づいてから・・・というのが、現実的に思える。

ただ、そこから幕府を隠れ蓑にして、全国の大名が自分に逆らいにくくなる状況を巧みに作ったのは、さすが織田信長と言ったところ。京都の街で銭を撒く小一郎も、あるいは『どうする家康』(2023年)のときの松本潤版・徳川家康も「これで平和が訪れる」と確信していたので、このことだけでもかなりの偉業だったと思われる。

しかし、100年近い乱世の世は、そんなに「はいそうですか」で収まるものではなかった。その辺りは、来週以降じっくり描かれていくだろう。

■ 室町幕府ってどうなる?最後の将軍、就任とはいえ、この信長の動きに感心する以前に、一体なにがどうなって、将軍最有力候補の人が、明智光秀(要潤)の従者のフリをしてまで全国放浪してんの? って思う人も結構いるかもしれない。光秀を主役にした2020年の大河ドラマ『麒麟がくる』で、すでに履修済の人も多いかもしれないが、一度振り返っておこう。

まず義昭の兄・13代将軍足利義輝は、完全に権威が失墜していた室町幕府を立て直すために、当時畿内で勢力を振るっていた大名たちと渡り合い、徐々に力を取り戻そうとしていた。

しかし、三好家は彼の力が大きくなりすぎるのを恐れ、この2年ほど前に、今回登場した三好三人衆+松永久秀(竹中直人)の息子が御所を襲撃し、義輝とその身内などを殺害。一度は落ち着くかと思われた京都が、また無政府状態に逆戻りした。

信長が上洛したときに、庶民たちに「いい加減にしろ」みたいなムードがあふれていたのは、ようやく照らされた希望の光が、暴力的に閉ざされてしまったばかりだったから・・・ということがうかがえた。

三好家は義輝の従兄弟を14代将軍に据えるが、当然周囲からの反発は強く、興福寺の僧侶となっていた義輝の弟・義昭を擁立する動きが出てくる。当然義昭は監視されるが、義輝の遺臣たちの手で寺を脱出。各地を転々としながら、助けてくれそうな大名を探し回り、ようやく手を上げたのが信長だった・・・というわけだ。

ちなみに光秀は、この時代誰に仕えていたのかはハッキリしておらず、もともと幕臣だったとも、朝倉家でくすぶっていた頃に義昭と出会い、信長との交渉を仲介したとも言われている。

信長と義昭が幸運だったのは、義輝殺害以降、三好家の内部は不安定で、この頃は盤石とは言えなかったことだ。

そして、信長にとっては、この上なく有能な人物・明智光秀との出会いも大きかったはず。このあと信長の家臣となった光秀は、義昭のもとではふるえなかった軍事&政治的手腕を、信長のためにガンガン発揮していくのだから、こうして見ると相当いろんなラッキーが重なった出会いと上洛だったのがわかる。

さて、次回からは、信長の上洛要請に対していろんな大名がリアクションを返してくると思うが、松永久秀は「将軍殺害には関わってません!」と直談判に来るらしいので、小栗と竹中の演技合戦込みで信長の反応が楽しみでならない。

どうやら、豊臣兄弟とも早速絡みがあるようだ。かつて大河ドラマ『秀吉』(1996年)で主人公を演じた竹中直人+今の秀吉(池松壮亮)に、秀長がどう振り回されることになるのか? クセの強い2人だけに、楽しみなような心配なような・・・。

大河ドラマ『豊臣兄弟!』はNHK総合で毎週日曜・20時から、NHKBSは18時から、BSP4Kでは12時15分からスタート。3月22日放送の第11回「本圀寺の変」では、豊臣兄弟が松永久秀の仲介で、堺の商人たちと交渉を繰り広げるところと、足利義昭と三好三人衆が武力衝突する「本圀寺の変」が描かれる。

文/吉永美和子

【動画】「天下布武」とは?豊臣兄弟が解説

(Lmaga.jp)

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