なぜ動物園に?解体する異人館・神戸「旧ハンター住宅」の魅力、そして今後は?
現存する異人館のなかで最大規模の洋館で、国の重要文化財の「旧ハンター住宅」の一般公開が、12月28日で終了する。今後は調査・解体のあと、現在の「神戸市立王子動物園」内(神戸市灘区)から、神戸・北野の異人館エリア(神戸市中央区)に移築され、「里帰り」する予定になっている。
「レトロ建築」として注目を浴びるほか、2017年公開の『鋼の錬金術師 』(主演:山田涼介)、2020年公開『天外者』( 主演:三浦春馬)など映画のロケ地としても、使用され、一般公開日には、作品ファンが「聖地巡礼」として、多数訪れる同住宅。その歴史と今後について、神戸市文化スポーツ局文化財課を取材した。
同住宅は、明治22年(1889年)ごろに、ドイツ人のA.グレッピー氏が英国人の技師に依頼して、「トアロード」の名前の由来となった「元トーア・ホテル跡」に作ったとされている。構造は木の柱の間にれんがが積まれた「木骨れんが造」で、コロネード(列柱式)ベランダと、切妻屋根にある三角形(ペジメント)が特徴的なデザインになっている。
◆ ハンターさんはどんな人?なぜ動物園の中に?明治40年(1907年)に、グレッピー氏から同住宅の部材を買い取った英国人のエドワード・ハズレット・ハンター氏が、「ハンター坂」の北(神戸市中央区北野町3丁目)に、改造をおこない自宅として建築。
そのときに、おそらく寒さ対策で、開放だったベランダ部分に幾何学格子の窓を設置した。そのためベランダ内部の窓に鎧戸があるほか、雨を流すために床が傾斜しているなど、開放ベランダの名残がある。
ハンター氏は、1881年に「カナデビア」(旧「日立造船」)の前身「大阪鉄工所」を創業した人物。当時、建物前には庭と馬車寄せがあり、本館の左右に和館とビリヤード場、裏に使用人棟がある立派なお屋敷だった。現在も玄関に入った左側に、和館につながっていた扉の名残が。
ハンター氏のあと、複数の所有者を経て、戦後の高度成長期に取り壊されそうになる。その際に、地元で保存運動が起こり、兵庫県が譲り受けた。兵庫県は部材をしばらく保管していたが、動物園の横にあった兵庫県の施設の北側(現在の場所)に空いていた神戸市の土地に、昭和38年(1963年)に移築した。
その後、兵庫県の施設は移転し、動物園の敷地が広がったため、結果的に同住宅は動物園のなかに取り込まれることに。「皆さん、どうして動物園のなかにハンター住宅があるのか疑問に感じていると思うんですけど、意図して動物園に持ってきたわけではなく、結果的に動物園のなかに入ってしまったという経緯があります」と、担当者。
◆ 「一旦解体」その理由は…?1966年には、国の重要文化財に指定。1995年の阪神淡路大震災では、煙突が折れて室内に落下するなどの大きな被害を受けたが倒壊は免れ、復旧工事がおこなわれた。このときに補強などはおこなわれていないため、今回の移築で耐震補強工事がおこなわれる。
耐震補強工事として具体的には、基礎を一部コンクリートで補強するほか、柱の接合部を金具で留めるなどが考えられている。そのため、年内で室内の一般公開が終了し、年明けから本格的に調査が始まる。
部材は全て番号をふって分解され、極力もとの部材をそのまま使い組み立てられる予定。調査・解体・組み立てには、相当な時間がかかることが予想され、完成時期などは現時点では明確ではないという。
また、移築先は北野エリアで検討されている。「北野に移築するというのも、ひとつは地元の要望というのがありました。止むを得ずこの場所に移築した経緯がありますから、本来の場所に戻したという思いは昔からあります。ただし灘区の方からは、寂しいというお声もあります」と、担当者は話した。
「旧ハンター住宅」の内部公開は、12月28日にて終了。公開時間は朝9時30分から16時まで。入場無料(動物園の入園料は必要)。4月の桜の季節までは、外部は公開が続く予定。その後は仮囲いされるため、外部見学もできなくなる。
取材・文・写真(一部)/太田浩子 写真/Lmaga.jp編集部
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