25歳の国民的女優・葵わかな「答えを知りたいと思うから、前に進もうとする」

コロナ禍による興行の自粛で、上演が叶わなかった舞台が次々に日の目を見ている昨今。2020年に東京で日本初演されたものの、そのあとの大阪公演は中止になってしまったミュージカル『アナスタシア』もまたそのひとつ。

主人公・アーニャを演じるひとり・葵わかなは、この舞台以降も『パンドラの鐘』などのストレートプレイや、『三千円の使いかた』(CX)などのドラマで主演。確実にひと回り大きくなった状態で、3年ぶりのアーニャに挑む彼女に、『アナスタシア』の魅力から、なじみ深い街・大阪でやりたいことまで、いろいろ語ってもらった。

取材・文/吉永美和子 写真/バンリ

● 「止まっては再開の繰りかえし・・・本当に大変だった」──『アナスタシア』は記憶喪失の女性・アーニャが、実はロシア革命時に処刑されたはずの皇女アナスタシアでは?・・・というミステリー色の強い物語を、高精細の映像や壮大な音楽で描くという、スケールの大きなミュージカルです。初演を大阪で観られなかったのは、非常に残念でした。

東京公演も(公演が)止まっては再開するの繰りかえしだったので、本当に大変だった記憶があります。作品の方は、こなさなければいけないタスクというか、決まりごとが多く、難しかったです。舞台装置、音楽、照明など全てのタイミングが一致しないと、お話が進んでいかないので。

──舞台機構が複雑なのは、観ている分には楽しいのですが、やる方は大変そうです。

でも、いろんな細かなものが作用して、大きな1つのストーリーが流れていくというのは、本作のとても素敵なところ。私自身は、1個のピースとして、完ぺきにそれをやり遂げたいと思っていました。だから初演では、決まりごとを丁寧にやっていくことにすごく集中していて、役の方は「もっと深めたかった」というところで、終わってしまった感じでした。

──では今回の再演では、そこが課題になるでしょうか?

一度経験している分、役も歌も、もっと深めていける部分は確かにあると思います。さらに(初演から)3年も経つと、経験を培ったことで考え方が変わった部分が、(キャストの)みんなそれぞれあるはず。「3年」って数字では短いけれど、やっぱりあるのとないのとでは全然違うと思います。「これだ!」という違いは、まだ明確に言葉にできないのですが・・・演出スタッフの方も変わられて、そういう意味でもまた新しい風が吹いているので、前回とは違うスタンスで稽古に臨めているような気がします。

──アーニャといえば、一幕最後のソロナンバーは非常にすばらしい曲で、歌いきった瞬間はすごく気持ちいいだろうなあ・・・と思ったのですが、実際はいかがですか?

いやもう、そんなレベルではないです。大変すぎて(笑)。アーニャは一幕で1度も休みがなく、しかも一生けん命がむしゃらに走っている役なので、体力的にすごく厳しい。「疲れたー」ってなったときに、あの最後のナンバーなんです。

しかも物語にとって、本当に大事な曲。それを歌うというプレッシャーと、体力の限界の両方を感じつつも、でもやっぱりこの曲を届けたい! という気合もあいまって、いつも終わったときは「ああ、終わった・・・よかったー!!」という気持ちになってましたね(笑)。

● 「一歩一歩進もうとする姿に、勇気をもらえる」──背景とか人間関係はシリアスですが、その一方で聞かせるナンバーも多くて、美術や衣裳も非常にきらびやかだから、これぞ「THE ミュージカル」という作品でもありますね。

確かにアーニャはすごく暗いものを抱えているし、歴史的な背景も現実として大きなものがありますが、物語のテイストというか、世界観は本当に「おとぎ話」。夢があって、希望もあるから。このミュージカルは観劇の年齢制限が低めに設定(※4歳から)されているので、小さいお子さまも見られるんです。子どもたちにとっては、絵本の世界に飛び込むような気持ちになれると思うので、それは作品のひとつの魅力でもあります。

──4歳でこの舞台を見たら、一生忘れない鮮烈な記憶になりそうです。

私はこの作品を海外で拝見したのですが、劇場はすごく小さい子ばっかりで、ビックリすると同時に、うれしい気持ちにもなりました。自分も小さいときに観ていたら、どんなに良かっただろう! って(笑)。日本でもそうなってくれたらいいなあと思います。

──そして「本当の自分」をひたむきに探すアーニャは、多くの人が自分と重ね合わせやすくて、感情移入しやすいキャラクターだと思います。

確かに。アーニャの抱える葛藤みたいなものは、みんなそれぞれ感じたことがあるんじゃないかと思います。私も今稽古をしながら「アーニャはずっと悩み続けている」というのが、すごく印象的なんです。でも悩んでいるからこそ、答えを知りたいと思うからこそ、前に進もうとする。不自由ながらも、一歩一歩ゆっくりでも進もうとする姿に、共感したり、勇気をもらえたりするのかな? と思います。

● 「『簡単だ』なんて、感じたことない」──『アナスタシア』がそういう童話のような世界である一方で、最近の葵さんが主演したドラマは、同年代の女性が結婚やお金について考えるという、現実的なテーマの作品が続いていましたね。

今私は25歳なんですけど、同年代の子たちが社会人になり、子育てをする人も増えてきて。友達と話しても「お給料が・・・」とか「昇進したら・・・」と、学生時代に喋っていた内容とは、全然違います(笑)。だから自分の周りで現実に起こり始めたことが、ちょうどドラマの題材になっていて、すごくご縁を感じました。

──ファンタジーな作品と現実的な作品だと、どちらがやりやすいとかありますか?

あんまり変わらない気がします。リアリティがある作品だと、みんながその世界を知っているから、見る目がすごく厳しくなるのを感じます。自分でも、ちょっと不自然なことがあると「え? こんなことに絶対ならないよね」という違和感が気になって、お話が入ってこなくなる。

だから現実的な話こそ、すごく丁寧に作り込まなければいけないと思います。逆に『アナスタシア』みたいな話は、現実からかけ離れすぎると、観る方が着いてこられなくなってしまうので、いかに現実味や実感を持たせるかという部分を、やはり丁寧に作らないといけないんです。だから、どちらも難しいですね。

──楽な仕事なんかない、ってことですね。

「簡単だ」なんて、感じたことないかもしれない。バラエティはバラエティで難しいですし(笑)、簡単にできることは、今のところ周りにはなにもないという気がします。

──でも葵さんの演技は、若さの割に肝が座っているというか・・・2022年の『パンドラの鐘』の古代王国の女王・ヒメ女役も、可憐さのなかに威厳があって、非常に印象的でした。

あれこそ本当に「やるしかない」という役でした。ヒメ女は周りの人たちのために、自分で死を決断するのですが、それって相当なメンタルじゃないですか? ある意味では燃え尽きていないと、そこまで作り上げていけないのが難しかったです。背負っているものが大きな役だったので、かなりのプレッシャーを感じていましたが、そう仰っていただけて「ああ、よかった」と、今思いました(笑)。

──ようやく肩の荷が降りたわけですね。その経験もまた『アナスタシア』に生きてくるのではないでしょうか。

『パンドラの鐘』もそうですし、そのほかの現実的なドラマのものでも、自分が経験してきたことが「あ、生きてるな」と思う瞬間はあると思います。

──葵さんは、2017年のNHK大阪局の朝ドラ『わろてんか』に主演されていたので、大阪はなじみのある街だと思います。3年前の大阪公演中止で実現できなかったので、今年はやってみたい! と思っていることはありますか?

やっぱりコロナ禍もあって、長期で大阪に行く機会がなかなかなかったんです。朝ドラの撮影中は大阪に住んでいたので、当時よく行ってたお店には、タイミングがあったら行きたいです。焼肉屋さんとか韓国料理屋さんとか、大阪にしかないおいしいものって多いんですよ。(大阪公演のある)10月はだいぶ涼しくなっていると思うから、久々の大阪の街を楽しめたらと思います。

ミュージカル『アナスタシア』は葵のほか、木下晴香、海宝直人、相葉裕樹、内海啓貴、麻実れいなどが出演。東京公演を経て、10月19~31日に「梅田芸術劇場メインホール」(大阪市北区)にて上演。チケットはS席1万4000円ほか、現在発売中。

(Lmaga.jp)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

関西最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(芸能)

    話題の写真ランキング

    デイリーおすすめアイテム

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス