ピアニストのラン・ラン、ディズニー映画とクラシックの出会いに「とても大きな一歩」

不朽の名作と言われるチャイコフスキー作曲のバレエ音楽を、ディズニーが圧倒的な映像美と至高の音楽をもって実写映画化した『くるみ割り人形と秘密の王国』。愛する母を亡くし、心を閉ざしたクララが迷い込んだ「秘密の王国」で、母が遺したメッセージを探すという壮大なファンタジー大作だ。この映画にピアノ・ソリストとして参加するのは、北京オリンピックの開会式などで知られる世界的ピアニストのラン・ラン。超多忙のなか、来日した彼に話を訊いた。

取材・文/ミルクマン斉藤

「子どもたちは、まさに未来そのもの」(ラン・ラン)

──かつて日本映画『のだめカンタービレ』で、主人公のピアノ演奏を担当されたことはありましたが、この映画『くるみ割り人形と秘密の王国』の話をお引き受けになったのはどういう経緯があったのでしょう?

『くるみ割り人形』は私の最も好きなバレエ曲です。クリスマス・シーズンというのは、子どもたちがバレエを観て、クラシック音楽の最初の一歩を踏み入れることがよくあるんですね。そのなかで、上演される機会がもっとも多い『くるみ割り人形』をディズニーが作るからには、世界中の子どもたちにクラシック音楽の素晴らしさを伝えるような映画に絶対にしてくれるだろうと思ったんです。

──なるほど、そういう思いがあったんですね。

さらに、指揮者のグスターボ・ドゥダメル、バレエダンサーのミスティ・コープランド、そして、映画音楽を担当しているジェームズ・ニュートン・ハワードといったファンタスティックな芸術家たちがこの映画『くるみ割り人形と秘密の王国』に関わるからには、きっと素晴らしいものになると思いました。

──完成した映画をご覧になって、どうでしたか?

チャイコフスキー版のもつ叙情的な大きなメロディラインに対して、映画の音楽を手掛けたジェームズ・ニュートン・ハワードの『くるみ割り人形』は、チャイコフスキー版にはない繊細さや色彩感もあり、物語をパーフェクトに辿っていくような楽曲です。まったく違う2つのアプローチの楽曲を映画が橋渡しとなって映像としてまとめられているのが素晴らしいですね。

──お堅いイメージのクラシック音楽界ですが、この10年、その裾野を広げるというか、大きな風穴を開けた最大の立役者こそ、36歳のラン・ランさんと37歳のグスターボ・ドゥダメルさんだと思うのです。そんな2人の共演は、この映画の魅力のひとつです。

グスターボとは20代のはじめから何年も一緒にベルリンで、ダニエル・バレンボイムの下で勉強していたんです。子どもたちにどうやって音楽教育を施したらよいか、音楽を伝えたらよいか。クラシック音楽に対する愛をともに分かち合い、それを子どもの心に届けるにはどうしたらよいか。私たちは常に、そこに焦点を合わせているんです。なにしろ子どもたちは、まさに未来そのものですからね。ですから今も彼と一緒に過ごす時間は、とても特別なひとときなんですよ。

「クラシックにとってとても大きな一歩」(ラン・ラン)

──グスターボ・ドゥダメルさんは、有名な「エル・システマ」(註)の出身ですものね。 (註:1975年、ホセ・アントニオ・アブレウ氏の提唱により南米ベネズエラで始まった音楽教育システム)

クラシック音楽とは縁の無かった人たちを繋げるようなアプローチを、グスターボはやりたいと思っているんです。彼はウィーン・フィルハーモニーと特別コンサートを開いて、1000人くらいの生徒を招待したことがあります。朝からホールにやってきた生徒たちは、最初何が起きるんだろうというような顔をしていたらしいのですが、演奏を聴いたあとには大変な質問攻めに遭ったそうです。

──どんな質問が飛びだしたんですか?

「何を考えて弾いてたの?」とか「指揮者は何をしているの? 何を考えているの?」とか、とにかくいっぱい訊かれた、と。彼らが完全にクラシックを理解したとは僕は思わないけど、とにかく音楽に何かを感じたのは間違いないでしょう。音楽と繋がることで人々をも繋ぐことこそが大事なことなんです。ディズニーは『美女と野獣』や『ライオン・キング』といった素晴らしいミュージカルをたくさん作ってきましたよね。そんな彼らがクラシックに挑戦したというのは、クラシックにとってとても大きな一歩になると思います。

──映画音楽界の巨匠たるジェームズ・ニュートン・ハワードさんとは、昔からのお知り合いのようですが、どういう繋がりだったのでしょうか?

以前から、彼の音楽はよく知っていました。彼のスタジオに行って、僕に書いてきたピアノ作品を見せてくれたりして。今回の仕事でより2人の距離が縮まりましたね。でも、チャイコフスキーという偉人の作品を前提にして、新たな作品を創作するというのはものすごく大変なことなんです。完全に新しく作曲した部分はあるけれど、チャイコフスキーの原音楽とまったく別なものにはならないよう、繋げてひとつにする。そうすることで更に広がりのある「空」を創り出した。「空虚」の「空」ではありません。いろいろなものが入り込む余地を残す、そういう意味での「空」です。

──なるほど。そういえば、この取材の前におこなわれた公開記念のイベント(東京・TOHOシネマズ日比谷)で、日本のアニメーションがお好きだとおっしゃってました。どんな作品が好きですか?

やはり『ドラゴンボールZ』ですね! 孫悟空は最高です(笑)。あと『ドラえもん』も大好きで、新しい映画が出たら必ず観るようにしています。この映画『くるみ割り人形と秘密の王国』のファンタジック・ワールドに相通じるものがありますね!

(Lmaga.jp)

関連ニュース

編集者のオススメ記事

関西最新ニュース

もっとみる

    主要ニュース

    ランキング(芸能)

    話題の写真ランキング

    デイリーおすすめアイテム

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス