キダ・タロー あの楽曲はどのようにして誕生したのか…「アホの坂田」編
“浪花のモーツァルト”として親しまれる作曲家のキダ・タロー氏(86)は、発表から何十年をへても人々の心に残る数々の名曲を残している。「プロポーズ大作戦のテーマ」、「アホの坂田」、「かに道楽」。それぞれの曲が誕生したマル秘エピソードをこってり聞いた。(上)(下)で。以下は(下)。
「キダメロディー総選挙」で3位となったのはお笑いコンビ、コメディーNo.1の坂田利夫のテーマ曲「アホの坂田」(1972年8月発売)だ。メキシコの伝統音楽「メキシカン・ハット・ダンス」のパロディーだとCD解説にある。
「戦後、私はバンドでピアノをひいていました。進駐軍専用のキャバレーで、メキシカンの人がよく来ていたんです。彼らがピアノのまわりに来て『タラッ、タラッ、タラッタラッタラッ』と口ずさんで、ひいてくれと言うんです」
キダ氏は「アホッ、アホッ、アホのさーかた」の部分を口ずさんだ。
「当時、メキシカン・ハット・ダンスとは知らなかったんですけど、彼らが言う通りにひいたらメキシカンの人が足を踏みならして手をたたいて喜ぶんです。バンドマスターに『このメロディーみんな喜びまっせ』と。『ほんならやったげよ』ということになって、ものすごい盛り上がったんです。それを強く覚えていましてね。それからだいぶたって坂田さんの曲を作ろうということになりました。坂田さんには斬新なギャグがあって私は非常に感動していたんです」
「アホ」で売り出した坂田のギャグに「おい、坂田」と呼ばれると「坂田と呼ばずにアホと呼んで!」というものがある。キダ氏が感動したのはこのギャグだった。
「大阪弁の『アホ』は『ホ』にアクセントがある。『ア』ではない。そう思った時にメキシカン・ハット・ダンスの『タラッ、タラッ』のメロディーが出てきたんです」
「アホッ、アホッ」が誕生した瞬間だった。
「このメロディーを絶対に使いたい。そのためには『メキシカン・ハット・ダンス』のメロディーを使っていますという印がいるんです。そのためにはこの曲の第1テーマを使えば完璧に分かってもらえます。『メキシカン・ハット・ダンス』を使っているという意思表示になります」
キダ氏は「アホッ、アホッ」の前にイントロとして「メキシカン・ハット・ダンス」の第1テーマを付け、「盗作ではなくパロディー」であることを示した。曲は大ヒットし、現在も人気。しかし、当時はすぐに発禁となった。
「全国校長会から抗議がありまして。坂田という名前の子供がいじめられるからやめてくれと。発売してすぐでした」
苦労して作った曲が発禁。納得いったのだろうか。
「なるほどと思いました。音楽というのはそれだけ力があります。その曲を聴いて死にに行こかという曲もある。軍歌がそうです。質のいい軍歌は戦時中に聴きますと『死んでもいい』という気になります。音楽はそういう力を持っています」