いまやスタンダード・ナンバーになった「セクシィ」や「月のあかり」などで知られる伝説的シンガー・ソングライターの下田逸郎が今年、７０歳の古希を迎え、久々のオリジナルアルバム「忘我」をリリースした。現在は神戸に居を構えて活動している下田が新作や現在の心境を語るインタビュー、その中編をお届けする。

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　下田のやってきたことは、俳諧のごとき行為だという。

　「（松尾）芭蕉とか（小林）一茶とか、尾崎放哉だとか、（種田）山頭火だとか、旅をしている俳諧師とかいるじゃない？あれなんじゃないかと思う、最近。昔、吟遊詩人と言ってたけども。結局、『旅に病んで夢は枯れ野を駆け巡る』あれ芭蕉だからさ。放哉で一番好きなのが『墓のうらに廻る』っていう、それだけのがあるんだけどさ。なんじゃこりゃ？とちょっと思ったけど、あの感じやな」

　俳諧師と、全国をライブしながら旅する歌手のあり方は似ている。ライブのみならず、「忘我」のレコーディングも下北沢ラ・カーニャ、大阪Ｓ．ｏ．Ｒ．ａでのライブ録音、ベースの東ともみ率いるトリオとの西宮での録音、フォークデュオ「ＨＡＲＵ」との福岡での録音、Ｏ．Ａ．アンサンブルとの神戸チキンジョージでの公開録音と、日本中で行われている。

　「旅とか色んな人と会っていきながらライブを－数は減ったけども－やりながら歌を作っていってってのがもう７０過ぎたらできないかなっていうのがどっかあったんじゃないかな。それで行こうかなと思って。でも歌ずっと作ってるし。業界離れ、世間離れみたいなものに歌を使っていくみたいなことでいいかなと思ってんのね」

　今年７０歳といえば１９４８年生まれ。団塊の世代であり、ザ・ビートルズやボブ・ディランといった英米のロックやフォークの直撃を受けた世代だ。

　「お手本はフォークとかロックとかいう、アメリカとかイギリスからのもんや。音楽をやってるやつは全てコピーから来るから、風俗とか生き方を全部取り込んでやるわけやからな。ローリング・ストーンズだってエルヴィス・プレスリーにしたってそうなわけだからさ。それを自分のものにしていくっていうのができないやつが多いよな。途中で死んじゃうやつが。それが俺が言ってる、人間が音楽を作ってる本質なんだけど、そこまでたどり着くやつがあんまりいないよな」

　下田は音楽の喜びをこう説明する。

　「絵描きでもそうだし、映画監督でもそうだし、物を作るっていうのが面白いんだよ、結局。職人みたいなところもあるし。５０年、歌、何千曲って歌ったと思うんだけど。作って発表する時に、（作詞やプロデュースで）アイドルが歌ったり、売れた人が歌ったりするのもやってきたわけだけど、やっぱり作ったのを自分で歌って旅をしてライブを歌って、空気に流してなんか反応が起こるみたいなのが一番やな。それが基本だと思うわけよ。さっき言った俳諧の俳句のやつもそうやと思う。それでどっか行って先生みたいにして作ってギャラをもらってさ、それで渡り歩いていくわけやと。おんなしやん。俺のことを昔から知ってる人が人を呼んで、ライブを作ってくれるわけやろ」

　旅やライブには、今もなお新しい発見があるという。

　「飲む必要もないんだろうけど。１年に１回会ったら飲むしかないよ。今度のアルバム、ライブの途中でセキしたの入ってるんだよ。わざと入れたんだけど。『パーカッションだと思ってくれ』って言って歌い続けた。ライブがちょっと面白いよな、今。ものすごい新しい歌も『踊り子』も、同次元で歌えるようになってるよ。全然違和感ない」（後編に続く）

　【プロフィル】下田逸郎（しもだ・いつろう）１９４８年、宮崎県生まれ。２歳で東京に引っ越す。１８歳で浜口庫之助に師事。２０歳で寺山修司に出会い、演劇や音楽の音楽を担当、浅川マキに曲提供。同じハマクラ門下の斉藤ノブ（現ノヴ）とのユニット「シモンサイ」でシングル発売。２１歳で東由多加の東京キッドブラザーズに参加。「黄金バット」がニューヨークでロングラン公演。２５歳でスウェーデン、スペイン、フランスをさすらいＮＹへ。帰国後、シンガー・ソングライター、プロデューサー、作詞家として活躍。３７歳でエジプト、４７歳でフランスに渡り、６２歳でまたもやＮＹへ。主な楽曲に「踊り子」、「セクシィ」、「ＬＯＶＥ　ＨＯＴＥＬ」、「早く抱いて」、「月のあかり」など。近作に「相棒」の六角精児と組んだアルバム「緑の匂い」がある。