振付師・宮本賢二氏が語る羽生結弦「一つのプログラムをもっと大きくしてくれる」
フィギュアスケート男子で五輪2連覇を達成した羽生結弦さん(27)のスケート人生には、さまざまな人たちがかかわってきた。その一人、振付師の宮本賢二氏(43)は2012-13シーズンの「花になれ」や、15~16シーズンの「天と地のレクイエム」など、エキシビションの振り付けを担当した。競技会からの引退を受けて聞いた、当時の思いや、プロスケーターとして歩む今後への期待などを尋ねた。
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-競技会からの引退を聞いて、どのような思いだったか。
「一番は寂しいという気持ちでした。ずっとトップにいましたし、世界の宝のような選手です。喪失感のような、心にぽっかりと穴が空いたような感じでした」
-エキシビションの振付師として、2012~13シーズンの「花になれ」や、15~16シーズンの「天と地のレクイエム」などを手がけたが、きっかけは?
「東日本大震災が発生した2011年、4月9日に神戸で『東日本大震災チャリティー演技会 ~復興の街、神戸から~』を企画しました。羽生君が大変な状況だと聞いて、“みんなの前で滑ってもらえないだろうか?”ということが、最初のきっかけだったと思います」
-振り付けで心がけていたことは?
「『花になれ』のときは、『まずは歌詞をすごく大事にしてほしい』と伝えました。振り付けの前に『まずこの曲を全部歌えるようにしてほしい』と言ったら『全部覚えました。全部歌えます』と言われて。すごく感動しました。吸収するのが早くて、振り付けた動きに自分の魅力をプラスして、本当に歌いながら滑っていました。見る人に元気や癒やしを与えていた印象です」
-振り付けへのこだわりのようなものは見受けられたか。
「目が本当に鋭くて、目でビデオを捉えているような感じでした。自分の中ですぐ解釈していました。最初はコピーをして、それをもっとこうした方がいいかな、と自分で動いてみたりする。だから教える方としてはすごくプレッシャーですよね。軽い動きとか、さらっとしたものをしてしまうと、彼はおそらくすぐに見極めて、“もうちょっとこうですか?みたいな感じで言われるだろうな”と思いながら。緊張感がありましたね」
-質問されることはあったのか。
「彼との振り付けですごく印象的だったのは、お互いにあまりしゃべらなかったんですよね。こんな感じでとか、こういう雰囲気で、みたいに。ちょっとした言葉は言うんですけど。テレパシーではないかというぐらい、こちらの振り付けの意図をすぐに見つけてくれて動きにしてくれました」
-以心伝心のようにも思える。
「だれに対しても心を読み取ることがすごいのだろうと思いました。その話を本人にしたら『人はいろいろと違う形で教えるけど、賢二先生はそういう感じでやりますよね』と。的を得ているなと」
-特に印象的だったことは?
「覚えるのがまず早いんです。こういうこともできます、と自分の技術を出してくれて、それを取り入れましょうということもあったので、一つのプログラムをもっと自分なりに、そして私の意向も添えて大きくしてくれる。共同作業のような感じでした。『これをやってね』ということをただやるのではなくて、一緒に作り上げていく感覚でした」
-人を引きつける魅力はどのようなところにあると。
「いつも神がかった演技をしますが、簡単にトップにいたわけではないじゃないですか。けがのときにも、周りの人は“彼なら絶対に奇跡を起こす”と口にしていましたが、それを超えるような演技、結果を出してくる。でも普段は本当に普通の子。にこにこしていて。そこが魅力ではないですか。スケートの技術はもちろんですけど、それ以外のところも人として素晴らしいと思っています」
◆宮本賢二(みやもと・けんじ)1978年11月6日、兵庫県姫路市出身。シングルからアイスダンスに転向し、全日本選手権優勝など数々の栄冠を手にした。2006年に現役を退いた後は振付師として活躍。羽生結弦や荒川静香、高橋大輔、織田信成、宮原知子など国内トップスケーターのほか、さまざまなアイスショーの振り付けも行い、テレビなどでも解説を行っている。