圧巻日本新で五輪切符の新谷仁美 引退経て復帰 走りも言葉も熱く、鋭く

 女子1万メートルが行われ、すでに東京五輪参加標準記録を突破していた新谷仁美(32)=積水化学=は、30分20秒44の日本新記録で優勝し、2大会ぶりとなる五輪代表に内定した。02年に渋井陽子がマークした30分48秒89の日本記録を18年ぶりに更新した。

 圧巻の新谷劇場だった。ただ1人、異次元のラップを刻み、出場した21人中、2位の一山を除く19人を周回遅れに。従来の記録を28秒45も更新する18年ぶりの日本記録。ゴール後はしばらく膝に手をついた後、両腕を突き上げ、そして涙した。

 「久しぶりに自分の中で満足いくレースができた。一度引退した時も、復帰した時も、日本記録を超えないと世界と戦えないと思っていたので」。

 過酷な1人旅だった。スピードの違いで残り7000メートル手前で先頭に立つと、あとは自分との戦い。孤独な時間を支えたのは「プロは結果がすべて」という強烈な自負だった。

 紆余曲折を経て、光の当たる舞台に帰ってきた。12年にはロンドン五輪に出場し、13年世界選手権では5位入賞を果たした。ただ、ロンドン五輪以降に発症した右かかと痛の影響もあり、14年1月に電撃引退した。その後は事務職員としてOL生活を経験。生活費を切り詰めての日々に、アスリートとしての自分が恋しくなった。理由は1つ。「走る方がお金が稼げる」。プロとして18年に復帰すると、「自己中心的な私を受け止めてくれる」という男子800メートル元日本記録保持者の横田真人コーチという最大の理解者を得て、その後はハーフマラソン日本新に、5000メートルで日本人2人目の14分台をマークするなど快進撃を続けている。

 金銭面のことや女性アスリートの生理の話題などにもタブーなく発信してきた。

 「発信することに怖さはない。間違ったことは言ってないと思うし、間違っていたら正してくれる人が周りにいるので」。

 プロランナーとしての自分を「商品」と語る。だから、観衆への思いも、強く、近い。9年ぶりに手にした五輪切符。それでもコロナ禍の中で、国民が来夏の開催へ消極的な状況にきっぱりと言う。「私たちアスリートが“やりたい”、“やれることを信じたい”というのは、このご時世ではただのワガママ」。だから、最後まで大会の真の意味での成功の可能性を探る。「人の命が懸かっていること。国民の皆さんと一緒に納得できる大会にしないと。私たちアスリートは結果以上のものをみせないといけない」。熱く、鋭い、覚悟の新谷節が轟いた。

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