徳島・伊藤 眠れぬ夜を耐えてかなえた夢…次は開幕1軍目指す
【徳島・伊藤翔投手】文=高田博史
伊藤翔にとって気持ちの落ち着かない日々は、すでに9月後半から続いていた。それがピークとなったのは、ドラフト会議前夜である。
指名されないんじゃないか--。不安を振り払うかのように、日付が変わる前に布団に入った。調査書は9球団から届いている。周りは「大丈夫だよ。4位、5位は固いよ」と言う。
「(名前を)呼んでもらえるだけでもうれしい。支配下がいいな。下位でもいいので、と思っていました」
心配が頭から離れず、一向に眠れない。もう数時間、同じ体勢のままだ。
体を起こし、飲み物を口にした。テレビを見ていれば寝られるだろうと、リモコンを手に取る。ボーっとニュースを見ながら、画面に表示されている時刻を見た。午前4時を回っていた。
「えっ!と思って。時間がすごく早く感じて。もうこんな時間なの!寝なきゃまずい!と思って。布団にもぐって、ひたすら目をつぶっていました」
ようやく眠りに落ちたのは午前5時ごろである。だが、7時半には目が覚めた。
歓喜の瞬間は、目の前で起きていることが信じられなかった。西武から3巡目での指名は、又吉克樹(元香川)の中日2巡目指名に次ぐ上位での指名である。
祝いの食事会を終え、午前1時前に帰宅してからも、さらに目はさえ続けた。
「めっちゃ疲れてたんですけど。精神的に。でも、ドラフトが終わった安心感と、ホントに自分が指名されたのか?っていう不思議な感じがあって」
スマートフォンを手に、西武のアカウントを見た。スクリーンに映し出されていた自分の名前が、写真となって載っていた。
11月1日、松山で行われた「AWARD 2017」において、年間MVPを受賞している。選考に異論はないだろう。18歳での受賞は史上最年少受賞である。2017年は、まさしく伊藤翔の年となった。
「この感謝の気持ちを忘れず、早く1軍のマウンドで投げられるよう、頑張って行きます」
眠れなかった夜も、いつか笑い話となるのだろう。四国で1つ、夢をかなえた。次の目標は開幕1軍である。