動く路面電車の博物館 今も走る「被爆電車」~広島電鉄

 「広島復興の象徴」でもある今なお現役の650形
 原爆ドームをバックに走る元京都市電の1900形
 元西鉄福岡市内線の3000形
3枚

 昨年、日本一を争ったカープの熱闘に盛り上がった広島には、もうひとつの日本一がある。国内約20の路面電車の中で車両保有数、1日の乗客数などが日本一の広島電鉄だ。市民の誇りでもあり、戦前の車両から最新の超低床車両まで多様な車種が走ることから“動く路面電車の博物館”といわれる『広電』に潜入した。

 ◇   ◇

 広島駅朝の通勤ラッシュ。広電がひっきりなしに出発していく。1日約15万人の利用客数は路面電車では日本一。7時台にはなんと32本もの広電が市内各方面に出発する、都心顔負けの超過密ダイヤだ。

 「駅前の信号が約2分20秒で変わるたびに、電車が出発していきます」とは広島電鉄・電車事業本部・助役の落合史行さん。ラッシュを過ぎると原爆ドームを目指して多くの外国人旅行者も利用する。

 1940(昭和15)年製の750形から最新の13年製1001形まで約25種類、297両の車両が市内をくまなく巡る。自社製も多いが、京都、大阪、神戸など、廃止になった市電の車両を譲り受け、ほぼ当時の塗装で走らせていることから、「動く路面電車の博物館」とも呼ばれている。

 一方で新型車両にも力を入れている。99年に独シーメンス社より5000形「グリーンムーバー」を導入したのを皮切りに、旧型車両から乗り降りのしやすい超低床車の置き換えが進められている。

 これだけの種類の車両を安全に運転するのも大変だ。軌道・鉄道線含め228人の運転士がほぼ毎日違った車種を運転する。「新型は性能が均一なので大差はないですが、旧型の車両はそれぞれにクセがあって、ブレーキのかけ方には“技”が必要な車両もあります」と電車企画部の柴田修さんは“腕の見せどころ”を教えてくれた。

 昨年の11月5日、平和大通りで約31万人を集めて行われた41年ぶりの「広島カープ優勝パレード」。広電関係者も事前の協議と準備を重ねながら、安全対策のため付近の電停を通過させたり、パレードの時間帯は電車を止めたりなどの措置を取ったという。

 人や環境に優しい都市交通として再認識されている路面電車。床下からモーター音を響かせ肩をゆすって走る旧型車両から、静かな車内と大きな前面展望が魅力の最新型まで乗り比べも楽しい。

 カープの応援前に広電にも乗ってみんさい-。

 ◆今も現役「被爆電車」

 数ある広電の車両の中でも特に有名なのが「被爆電車」650形だ。現在、3両が在籍している。

 昭和20(1945)年8月6日8時15分に原爆が投下され、壊滅的な被害を受けた広島だったが、広電はそのわずか3日後に一部区間で運転を再開、多くの市民を勇気づけた。

 651は昭和17(1942)年製。爆心地から約700メートルの付近を走行中に被爆した。多くの乗員乗客が命を落とし、車両も大きな被害を受けたが、復興への執念で終戦後の21年3月に復旧。以来、今日まで現役で走り続けている。

 車内は床をはじめ窓枠や乗車扉などが木製。ニスで光り輝き、新型にはないぬくもりを感じさせる。また台車も「ブリル台車」といって戦前の貴重なものを大切に使い続けているという。

 古い車両だけに保守点検も大変なはずだが、「もともと構造がシンプルですし、壊れたら部品を作って直せばいいですから」と、電車事業本部・電車技術部の景山敬助さん。笑顔の奥に、650形だけでなく、多くの旧型車を大切に走らせる“広電魂”が感じられた。

 現在、651・652の2両が本線を走行。できるだけ車両の負担を軽くするために、朝のラッシュ限定で走る。また、653形は原爆投下当時の塗装に塗り直されて保管。特別運転などに起用される。修学旅行シーズンや8月には貸し切り電車としての指名も多い。

 原爆投下から70年以上、喜びも悲しみも広島の復興とともに走り続けてきた650形に、社員の思いも深い。「平和のシンボルとしていつまでも走らせたいし、走らせます!」と景山さんの言葉が頼もしかった。

 ★広島電鉄メモ★           

 ▽総営業キロ35・1キロ(うち軌道路線は19キロ)。年間輸送人員は5659万人(15年度)で、1日の利用客約15万人と、約25種類297両の保有車両は日本一。

 ▽運航系統・料金 8系統で料金は市内線大人160円(こども80円)均一。1日乗車券は大人600円、こども300円。宮島行きのフェリー乗船券がついた1日乗車乗船券は大人840円、こども420円。

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