「外れ外れ」の強運

 【10月26日】

 ドラフト会議メーン会場の隣に広い、広いプレスワーキングルームがある。スポーツ紙、一般紙、通信社ごとに長テーブルが別れ、記者はそこに設置された大型の中継モニターでドラフトの模様を確認する。そこで取材の事は足りるのだが、今回はちょっと気になることがあったので、本会場に陣取ってナマで見ることにした。追ったのは金本知憲の表情である。

 金本の顔つきが最も険しくなったのは、清宮幸太郎の交渉権が日本ハムに決まったときではなかった。馬場皐輔の入札がソフトバンクと競合すると、あからさまに片目をギュッと瞑り、舌打ちをしたようにも映った。安田尚憲の交渉権を千葉ロッテに持っていかれた直後。今度は「外れ外れ1位」だから登壇は3回目になる。もちろんその種のプレッシャーはあったと思うけれど、それ以上に金本の面持ちには「馬場を逃したくない」という執念が見てとれた。

 阪神の「1位=清宮」は会社の総意で決まったと言われる。蓋を開ければ7球団の競合だったし、これだけの逸材だから当然といえば当然。阪神がいの一番に1位を公表したことも頷けたし、金本の清宮に対する評価も高かった。正直、僕も甲子園の浜風に挑戦する清宮の成長を見てみたかった思いはある。ただ、ここに至るまで金本には少なからずジレンマがあったのではないか…とも思うのだ。

 今タイガースに足りないものを思うとき、それは即戦力の投手ではないか。今季を振り返るまでもなく、現場の長として「1位=投手」を欲したとして何ら不思議はない。昨秋のドラフト直後、金本は話していた。「来年は全体的にいい野手が少ないと聞くんだよな…。だから、今年はいい野手を獲りたかった。大山は2位では獲れないことが分かっていたから」。

 昨年は野手。今年は投手…そんな設計が片隅にあったから、馬場の当たりくじを引いたリアクションは「外れ外れ」のそれではないほど激しかったのだと、感じる。

 まだある。反応はそれほど派手じゃなかったが、奥歯を噛んで3度頷いたのは、開始早々。東克樹という大学屈指の左腕をDeNAが1位入札したときである。実は金本の東に対する評価はずっと高かった。僕の取材では外れ1位は早くから東で確定していた。田嶋大樹=1位とも目されたDeNAが清宮には目もくれず左腕獲りにこだわったわけだが、金本からすればイタタタ…であったわけだ。

 馬場に対する評価はどうだったのか。仙台六大学リーグで馬場が属する仙台大とライバル関係にあるのが母校、東北福祉大である。そして母校の監督を務めるのは、金本が敬愛する大塚光二(元西武)。大塚に馬場の評価を聞いてみたのか?「いや聞かなかった」。前夜、ベットに入ったのは「結構遅かった」という。自身で映像と“格闘”し、最終判断したのだ。

 金本は赤いドットのネクタイを締めて臨んでいた。本人は笑うだけだが、赤は今年の勝負色。外れ外れの当たりくじこそ、金本の強運だと信じよう。=敬称略=

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