平幕Vの宝庫?名古屋場所で波乱の予感

 照ノ富士(伊勢ケ浜部屋)のドラマチックな初優勝と大関昇進で盛り上がった大相撲夏場所の千秋楽から3週間が経った。早くも名古屋場所(7月12日初日、愛知県体育館)まで残り1カ月を切り、各力士の調整もこれから熱を帯びてくることだろう。7連覇を逃した横綱白鵬(宮城野部屋)が巻き返すのか、それとも新大関照ノ富士の快進撃が続くのか。興味は尽きないところだが、果たして今回もすんなりと両者による優勝争いになるのかどうか。もともと酷暑の名古屋場所は体調管理が難しく、予想外の展開になることもしばしば。白鵬と照ノ富士の意外な不安材料を探ると、思わぬ波乱の予感が漂う。

 まず優勝候補筆頭である白鵬のモチベーション不足が懸念される。夏場所で優勝を逃して自身2度目の7連覇に失敗。史上初となる8連覇へのチャレンジの機会が消滅した。初場所で不滅の記録といわれた大鵬さんの優勝32回を更新。春場所でも優勝してV34に伸ばしたものの、「大鵬さんの数字を超えて、正直なところ心にぽっかり穴が開いた」ともらしたように、ここから先は誰も歩んだことのない道をたどるわけで、具体的な数字のターゲットは設定できないままでいる。

 とはいえ、夏場所の終盤での崩れ方にはびっくりした。鶴竜が優勝した昨年の春場所でも13日目から3連敗を喫したことがあったが、夏場所は12日目の豪栄道戦、14日目の稀勢の里戦とも土俵際で捨て身の逆転を食らってしまったもの。千秋楽の日馬富士戦は精も根も尽き果てたという印象で、信じられないようなモロい負け方だった。連覇が途切れてしまったことで、名古屋ではどこまで緊張感を保てるのだろうか。

 記録面では意欲をかき立てるものはなかなかないのが実情。横綱勝利数は現在632勝で、1位の北の湖(670勝)まではあと38勝。届くのはたぶん九州場所だろう。幕内勝利数は826勝で1位の魁皇(現浅香山親方)の879勝までは63勝。ひと場所平均13勝のペースでも5場所はかかる。さらに通算勝利は920勝でこれも1位の魁皇(1047勝)を更新するには1年半ほどかかりそうで、当面は大きなモチベーションにはなりえない。

 自己最高では63連勝をマークしたこともある連勝記録はどうか。最近では13年3月場所初日から7月場所13日目までの43連勝、そして14年11月場所7日目から今年の3月場所12日目までの36連勝があったが、今後は若手の成長で実力が接近してくるだけに、50以上の連勝記録はさすがに難しくなってくると思われる。

 14日に客員教授を務める東京・文京区の拓殖大で特別講義を行い、東京五輪での横綱土俵入りするのが夢と語っていたが、「5年後なので“う~ん”という感じだが、夢なので頑張っていきたい」と微妙な言い回し。五輪が開幕する20年7月には35歳になっている。いくらケガの少ないタイプとはいえ、あと5年も横綱を張り続けるとは自信を持って断言はできない。それは白鵬も認識している様子だった。最強の横綱でも燃える材料がなくては、激しい優勝争いをくぐり抜けるのは至難。世代交代を迫る若手の突き上げに対抗心をムキ出しにする姿を見てみたいが…。

 そのニュージェネレーションの旗頭でもある照ノ富士も、新大関場所でプレッシャーとの戦いに挑むことになる。新関脇からわずか2場所での大関昇進は1951年の吉葉山以来で、快挙であることには違いない。しかし、もうひと場所見ても良かったのではという時期尚早の意見もあった。もし、名古屋場所で不本意な成績に終わるようだと、周囲の声が多少はうるさくなりそうだ。

 ここ2場所の急成長ぶりは素晴らしいが、夏場所でも佐田の海、徳勝龍と平幕力士に2敗を喫しており、安定感に太鼓判が押せるわけではない。それでも横綱審議委員会の守屋秀繁委員長(千葉大名誉教授)からは、「わりと早い時期に横綱の声がかかるのではないか」と評価も高い。スケールの大きい取り口は無限の可能性を秘めている。あとはこれまでとは違う重圧がかかる土俵で力を発揮することができるか。未知数な部分が多いことは否めない。

 そうなると一番モチベーションが高いのは、2場所連続全休から復活をかける横綱鶴竜(井筒部屋)だろう。5月29日に第1子となる長女が誕生。「この子のためにも頑張らないといけない。目指すは優勝?それしかない」ときっぱり。横綱に昇進してからは満足のいく結果を残せていないが、横綱初Vそして妻子に賜杯をもたらしたいという意欲には並々ならぬものがある。

 そして最大の惑星は遠藤(追手風部屋)だろう。左膝に重傷を負いながらほぼぶっつけ本番で臨んだ夏場所は、6連敗スタートと苦しみながら徐々に調子を取り戻して終わってみれば6勝9敗。強行出場に踏み切ったことが、今後にいい影響を与えそうだ。

 番付は前頭12枚目あたりに後退するものの、三役クラスの地力があるだけに左膝の状態の好転が見込まれる名古屋では序盤から突っ走ってもおかしくない。終盤まで優勝争いに加わるような星数だったら、上位との対戦が組まれる可能性は十分。そうなれば尾張は大いに盛り上がる。

 年6場所制になった58年以降、名古屋場所では5回も平幕力士による優勝(64年・富士錦、72年・高見山、75年・金剛、91年・琴富士、92年・水戸泉)が出ており、これは地方場所では群を抜いて多い。荒れる春場所といわれる大阪でも2回だけ。九州場所も同じく2回。前述したように猛烈な暑さによるコンデシション調整の難しさを含めて、何か魔物でも棲んでいるかのようだ。何が飛び出すか分からない今年の名古屋場所。大荒れになっても決して驚けないと思う。(デイリースポーツ・北島稔大)

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