7か国語を操る落語家、離れ業に迫る

12月15日に発売されるDVD「三遊亭竜楽の七カ国語RAKUGO」
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 「七カ国語落語」なるものをご存じだろうか。イタリア、フランス、ドイツなどヨーロッパを中心に各国を飛び回り、その国の言語で一席披露してしまうという離れ業で、三遊亭竜楽(56)が手がけている。15日にDVD「三遊亭竜楽の七カ国語RAKUGO」の発売を控えた異能落語家に迫った。

   ◇  ◇

 訪れた海外の都市は33以上。外国語公演は120回を超える。誰もまねしようとしない外国で、外国語での落語を演じるのはなぜか。竜楽の答えは単純明快。「ウケたからですね。芸人だから受けたことに引き寄せられるんですね」だった。

 最初に海外で落語を行ったのは08年のことだった。知人がイタリアへ行くのでボランティアでやってほしい、という依頼を受けてのものだったが…。このボランティア、というのがくせ者。なんと渡航費まで自分で工面しなければいけないことが後になって発覚した。

 常識で考えると断ってもよい話。ところが竜楽は「もういいや、しょうがないからやりますって。向こうは字幕でやるつもりだったらしいんですけど、しゃくだったんで、イタリア語でやりますって」。芸人らしいと言うべきか、なんと言うべきか。半ばやけっぱちになって引き受けてしまった。

 意味を考えずに音で噺を覚えて発音をチェック。最後に単語の意味を調べるという、まるで歌を覚えるような、通常の落語とはまったく違う手法でイタリア語を詰め込んで、いざ本番。

 すると、これがウケた。

 その後はとんとん拍子に活動場所が広がっていった。翌年にはイタリア語に加えてフランス語と英語で。10年にはポルトガル語とスペイン語で、11年にはドイツ語でも公演し、7か国語での公演を達成した。

 演じる国によって若干、アレンジも加えた。旦那と小僧がお互いに隠れて味噌豆を食べようとする「味噌豆」をポルトガルで披露する際は、ポルトガルに豆を煮込む家庭料理が少ないため、味噌豆を「モエーラシュ」という砂肝の煮込みに差し替えた。総じて欧州では音を立てて物を食べる動作は「どん引きされる」(竜楽)ことから、静かなジェスチャーを心がけた。

 高座では巧みに言語を操る竜楽だが、会話の方は別に得意ではない。「始めのあいさつぐらいですよ。後は単語単語で」。翻訳された噺を全部覚えるので精いっぱいで、会話まで勉強する余力はないのだという。

 新しい試みに挑み続ける根底には、今は亡き師匠の教えがある。86年1月に弟子入りした、5代目三遊亭円楽さんだ。入門前に面識はなかったが、「笑点」(日本テレビ系)の司会などのテレビ、落語を通じて伝わってくる人柄にほれて入門した。その師匠から芸以外に指導されたことが「落語家とばかり付き合うな」というものだった。

 人として広がりを持て、というメッセージが込められていた。だから最初にイタリア語で公演をした、と報告したときには「英語で落語をやった奴はいるけど、イタリア語でやる奴はいないよ」と誰よりも評価してくれた。円楽さんが亡くなった09年10月も竜楽は外国語落語の公演でフランスからイタリアへ移動したタイミングだった。「もちろん、公演は続けました」。

 15日に発売するDVDには、過去の海外公演の模様や、BSフジで放送された自身の番組などが収録されている。「もう4、5年元気だったら(師匠も)もっと喜んでくれたと思います。ここまで広がるとは思わなかった」としみじみと語る竜楽の次の野望は中国語を演目に加えることだ。「8か国語になりますし、中国語が入ればだいたい世界中でいけるでしょ」。世界を股にかける落語家。日本にオチつくのはまだ先のようで…。(デイリースポーツ・広川 継)

   ◇  ◇

 三遊亭竜楽(さんゆうてい・りゅうらく)1958年9月12日、群馬県生まれの56歳。中大法学部を卒業後、法曹界が自分には向かないと考え、「人生を一度ご破算にしよう」と5代目三遊亭円楽さんに弟子入りする。92年に真打ちに昇進した。

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