破天荒エイシンヒカリに大器の期待 

 競馬界に新星現る!

 京都競馬場で秋華賞が行われた19日。裏開催となった東京競馬場のメーン11R・アイルランドT(芝2000メートル)で、横山典騎乗のエイシンヒカリ(牡3歳、栗東・坂口)がド派手なパフォーマンスを披露。その破天荒なレースぶりに、場内がドッとどよめいた。

 好スタートを決めたエイシンヒカリは、気合十分に首をグッと下げてグングン加速。前半1000メートルを58秒2というハイラップで飛ばし、後続を10馬身以上引き離す大逃げを打った。矢と化した漆黒の馬体は「いつ止まるかと思って、内心はヒヤヒヤしていた」と振り返る坂口正則調教師の心配をよそに、大きなリードを保ったまま直線へ。そこからのアクションに、多くの競馬ファンが度肝を抜かれた。

 残り400メートル。鞍上がスパートのタイミングをうかがう中、トップギアが入ったヒカリは徐々に外へよれ始める。左回りの東京コース。右ステッキを放って制御を試みるが、その勢いは止まらない。

 ラスト200メートル。気がつけば、人馬ともに外ラチ沿いのファンの目の前。ここぞとばかりに後続が内を突いて差を詰めたが、時既に遅し。ヒカリにはそれをしのぎ切れるだけのリードがたっぷりと残っていた。終わってみれば、2着馬に3馬身半差をつける楽勝。“真っすぐ走っていればどれだけ差がついたか?”。想像は膨らむばかりだ。

 この勝利でデビューから全て1番人気に応える無傷の5連勝。セールスポイントは、何と言っても非凡なスピードだ。自らハナを奪い、後続に影をも踏ませぬ快速ぶりは“最強の逃げ馬”と称されたサイレンススズカをほうふつとさせ、直線入り口から逸走した破天荒ぶりは、今年の独ダービーで同様の走りを見せたシーザムーンや、12年の阪神大賞典で暴走したオルフェーヴルの走りを思い出させた。

 この勝利に、坂口師は「勝ったから良かったけど、負けていたら何を言われていたか分からんな」と笑みを浮かべて安ど。幼少期は「小さい馬で全体的に体が弱かった」ため、春のクラシック(皐月賞、ダービー)は早い段階でパス。「急がなかったことが結果的には良かった」と話すように、馬の成長に合わせた育成が奏功し、快進撃へとつながった。

 父ディープインパクト、母の父ストームキャットは、12年のダービー馬キズナや桜花賞馬アユサンと同じ配合。競馬は“ブラッドスポーツ”とも呼ばれる。同馬も一本筋が通った血統で、ビッグレースを勝てるだけの爆発力を秘めている。

 調教担当の村井助手は、初めて追い切りに乗った際に「すごい動きで“これは走る”と思った。全部がすごかった」とモノの違いを感じたそう。だが、それでいて「現時点では7分ぐらいしかできてない」と言うから恐れ入る。残りの3分は「もっと筋肉がついてこないと。あとは気性。カッとなるので、そのあたりが良くなれば」と成長途上のスター候補に注文をつける。

 近々の課題は“真っすぐに走ること”だろうが、坂口師はさほど気にしていない様子。「いくらかもたれる面はあるけど、それほどでもないんだ。あの場面も、よれてほかの馬に迷惑をかけた訳じゃない。余裕があったからこそ無理に矯正しなかったんだと思う。現にジョッキーも言ってた。“そんなにもたれてはいなかったし、外の方が馬場状態が良かったし…”ってね」。確かに、あれだけ逸走したにもかかわらず、制裁は“調教再審査”までは及ばず“調教注意”にとどまった。もたれ癖は、時間とともに解決するだろう。

 今後について、坂口師は「今は少しテンションが高い。馬が落ち着くのを待ってから考えたい」と明言を避けたが、年内は休養に充てる公算が高い。この先、さらにハードルは上がるが「ここまで段階を踏みながらうまく育っている。重賞挑戦とかはまだ考えていない」とこれまで通り、じっくりと育てていく方針だ。

 真っ黒な馬体が印象的だが、実はこの馬、よく見ると“芦毛”。白さが増してくる今後は、アイドルホース・オグリキャップのような姿に変貌を遂げ、サイレンススズカを超える“最強の逃げ馬”となる可能性を秘めている。スターホース不在と言われる日本競馬の希望の“光”となるか。

(デイリースポーツ・松浦孝司)

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