中畑監督と石川の一触即発がDVDに!

 生々しいやりとりが、映像を通じて伝わってきた。ソフトバンク‐DeNA戦を終えた、ヤフオクドームのDeNA監督室。奥に座る中畑清監督は、直立不動の石川雄洋主将に厳しい口調を向ける。「準備ってもんが、できてないだろう?」。石川はぶ然と反論する「そういうアレはないですけど」。一触即発の緊迫したシーン。万一の事態に備えるかのように、座っていた友利投手コーチの腰が浮く‐。

 DeNAが17日に発売したの公式ドキュメンタリーDVD「ダグアウトのむこう2013」に収められたワンシーンだ。中畑監督が打撃不振と試合に臨む態度を問題視して石川に2軍降格を告げた。言葉自体は少ない。その人間対人間の心のやりとりが、真のドキュメンタリーとして伝わってきた。

 通常報道されるのは“ダグアウトの表側”に限られる。監督室や選手ロッカーなど“ダグアウトの向こう”は、取材NGエリア。いわば密室だ。そこで起こっていることは、われわれ報道陣も伝聞でしか知ることのできない世界である。

 “密室”で起こったことに対して、報道陣は当事者を取材することでタイムラグを経て知ることになる。周辺取材を重ねて、言葉を駆使してできるだけ臨場感をもって伝える作業をする。密室に入り込んだカメラには、飾り言葉は必要ない。言葉の少ない2人のやりとりを映像と共に伝えるだけで、これ以上ない臨場感を伝えているのだ。

 “公式DVD”の類いは、各球団で制作しているが、ここまでカメラが入り込む例はない。DeNAは内情をさらけ出す覚悟で、カメラの“むこう”への侵入を認めている。DeNAファンでなくても知りたい球界のひとつの本質的な部分がDVDには収められている。

 中畑監督は言う。「『ここまでカメラ入ってくる?』ってところまでカメラがいた。味わったことのない世界。最初は戸惑って、ミーティングでコーチ陣も意見がでなかった。でもファン心理からすれば知りたい世界。他はやらなくてもやっていくのがウチのチーム」。撮影を許可したのはファンのため。究極のファンサービスが、これまでの不可能を可能にした。

 DeNAは今季、12球団トップとなる昨年比122%の観客動員を記録した。公式ファンクラブ会員数も2・5倍増となった。終盤までCS争いした近年にない躍進が、もちろん大きな要因の1つだろう。

 観客動員増の影にはは、ただファンに試合を提供するだけでない営業努力もあった。今季、実に52種類のスペシャルチケットを発売し、8種類のスペシャルイベントを展開した。

 スペシャルチケットで話題を呼んだのは“100万円VIPチケット”。これにはリムジンでの送迎、ヘリコプターでの横浜クルーズ、試合後に中畑監督と中華街で食事ができる権利がついた。身近なレベルでは仕事帰りのサラリーマンを狙った“ビール飲み放題チケット”。女性向けの“女子シート”。家族連れ対象の“ファミチケ”など、あらゆる対象をターゲットにしたチケットを発売してきた。

 また、イベント面では、B級グルメが味わえる“B食祭”、試合後の夜のショーとユニホーム無料配布がセットになった“横浜スターナイト”などを開催した。試合前に布袋寅泰による応援歌生演奏、湘南乃風のライブも行った。

 時に斬新なファンサービスは、DeNAの池田純社長(36)が今季掲げた、「コミュニティ・ボールパーク構想」の一環でもある。そのコンセプトは「地域や職場における様々なコミュニティが“野球”をきっかけに集い、集った人たちが“野球”をきっかけにコミュニケーションを育むような、地域のランドマークになりたい、という思いを集約しています」(関係者)。スタジアムをただ、試合を観戦するだけでなく、非日常を味わえる特別な場所としてファンに提供する考えだ。

 中畑監督は言う。「プロ野球という世界は、お客さんに見てもらってナンボ。お客さんに給料をもらっているんだ。勘違いしている選手もいるが、本当は球団と契約してもらっているだけじゃないんだよ」。“お・も・て・な・し”の心が、球団の根底にある。

 地道なファンサービスも、チーム全体に浸透している。中畑監督は時間が許せば、いつ何時でもファンのサインや写真撮影に応じ、必ず言葉を交わす。ベテランの三浦は練習の合間にファンに声をかけられると、「○○時にここに戻ってくるから」と約束。練習後、必ず約束の場に戻り、列がなくなるまでペンを走らせる。試合前にエキサイティングシートで全員がサインをするシーンは、恒例行事となっている。

 中畑監督は来季も「ダグアウトのむこう」発売を約束した。球団は様々なチケット発売やイベントを通して盛り上げる方針。それ以上に、「来季はファンと勝ち試合を多く分かち合いたい。“てっぺん”を取りに行くよ。どこが“てっぺん”かは言わない。オレの頭の中にある」。球場で勝利を届けるという、最もシンプルなファンサービスを実現させる思いだ。

(デイリースポーツ・鈴木創太)

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