阪神・掛布DCが求める真の4番像

 阪神は今オフに球団記録となる349本塁打を放った掛布雅之氏がGM付育成&打撃コーディネーター(略称=DC)に就任した。88年の現役引退以降、実に25年ぶりの現場復帰。だがその間、自身が後継者と認める生え抜き4番の誕生はなかった。

 「昔は4番で勝った、負けたの試合が数多くあったんだけど、今は良い意味でも悪い意味でもチーム。個人で責任を背負うことがないよね」。指導をスタートさせた11月の秋季キャンプ休日。掛布DCはアイスコーヒーを手に、こう寂しそうに4番の話題を切り出した。

 重圧、苦しさ、務めた者にしか分からない虎の4番‐。03年からの黄金期は打線の中心に広島からFA移籍した金本がいた。その後継者は同じく、広島からFA移籍した新井だった。今季は新井良が開幕4番を務めるも、直後に故障で離脱。マートンが結果を出したが、掛布DCは「結果的にマートンしか4番を打てる人間がいなかったけど、4番ではない」。では自他共に認められる4番とは?掛布DCは現役時代の思い出話を交えつつ、こう明かす。

 80年代、大洋には遠藤というエースがいた。五回までに0‐5でリードされている展開。2死走者無しで打席には4番・掛布。初球、2球目と甘い直球を微動だにせず見送った。本来なら初球からでもスイングし、一発を狙って良い場面。だが「4番がね、そういう状況でただ単に本塁打を打っても意味が無いんだよ」と言う。

 「狙うのは相手のウイニングショット。遠藤のフォークはすばらしかったよ。だからこそ狙う。一番、得意にしているボールを打たれると、投手は何かしらのダメージが残るでしょ?甘い直球を打っても精神的に追い込むことはできない。たぶん1‐5で負けるよ。逆転を目指すのであれば、ウイニングショットを右翼席にたたき込まないといけない」。

 つまり相手が最も得意とするボールを打つことで、投手に精神的なダメージ、さらに味方ベンチに大きな勇気を与える。4番の一撃を見ることで、チームが息を吹き返し、エースに向かっていく気持ちが芽生える。日本一に輝いた85年は特に、大量点差からの逆転勝ちが多かった。

 バース、掛布、岡田のバックスクリーン3連発が生まれた試合もビハインドを許していたゲーム。「だからこそ、もし自分がウイニングショットを打てなければその試合は終わり。完封されるだろうね。それが4番の責任なんだよ。負けたら俺のせい。今、そんな4番はいないだろ?」。確かにマートンはそんなタイプの打者ではない。今、12球団を見渡してもそこまでの力、思考力を持った4番は見当たらない。

 「今年、鳥谷も4番を打ったけど、鳥谷の4番は無いよな。逆にマートン、鳥谷が5、6番あたりにいればチームは強い。でも現状はいないから、ここ1、2年は新外国人のゴメスや新井のお兄ちゃんに頑張ってもらわないと。その間に生え抜きの4番を育てないといけない」と掛布DCは力を込める。

 ただ打つだけでは物足りない。ゲームの流れを変え、たった一振りでチームの空気を変えられる4番打者‐。そんな後継者の育成が、25年ぶりにタテジマを身にまとったミスタータイガースの使命だ。(阪神担当・重松健三)

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