大相撲名古屋場所（愛知県体育館）が１２日から始まった。横綱日馬富士（伊勢ケ浜部屋）が初日の妙義龍戦で痛めていた右肘を強打してしまい、じん帯損傷のため２日目から休場してしまったのは残念だが、最大の注目点だった新大関照ノ富士（伊勢ケ浜部屋）が快調な滑り出しで序盤戦から満員御礼が続いている。

　例年、観客動員が難しいといわれる前半戦の平日でも多くのファンが詰めかけており、名古屋場所としては３代目若乃花が新横綱場所だった１９９８年以来となる１７年ぶりの１５日間連続満員が達成される可能性がかなり高くなっている。

　その注目を集める照ノ富士だが、さすがに初日の碧山戦では緊張とやや土俵が滑るという状況もあって、左足が流れてヒヤリとする場面があったものの、豪快な上手投げで白星スタート。これでメンタル面でも落ち着き、２日目以降は伸び伸びと相撲を取って、むしろ風格すら感じさせる取り口を見せている。

　北の湖理事長（元横綱）は「上を目指している力士。大関に上がったからといって守りに入るタイプではない」と評していたが、まさにその言葉通りの堂々とした相撲内容。このままいけば近いうちに横綱昇進のチャンスが訪れてくるのは間違いないだろう。

　平成生まれの力士として初めて幕内優勝を決めて大関に昇進。世代交代の旗頭として大きな期待がかけられている。現在の横綱・大関陣は場所前の７月３日に稀勢の里（田子ノ浦部屋）が２９歳になって、照ノ富士以外の６人が２９～３１歳に固まっており、ほぼ同年代といっていい構成。そこに２３歳の照ノ富士が加わったことで、さまざまな変化が生じてきそうだ。

　第一人者の横綱白鵬（宮城野部屋）は６月３０日の力士会後に報道陣のインタビューに応じ、まだまだ主役を譲る気はない意気込みを示しながらも、「役者がそろってきたかなという感じ。十両にも若手が出てきたしね。新しい流れ？１年後くらいにはそうなっているんじゃないかな」と若い世代の台頭を認めるコメント。今年の下半期から来年の前半にかけて、上位陣の顔ぶれが徐々に入れ替わってくる可能性があることを示唆したのだ。

　面白いのは照ノ富士が躍進したことで、同世代の平成生まれの若手はもちろんだが、中堅クラスの力士たちも大いに刺激を受けていること。以前から大関候補の呼び声が高い隠岐の海（八角部屋）は、６月７日の挙式披露宴での記者会見で今後の抱負を聞かれ、「正直言って、豪栄道が大関に上がった時よりも悔しかった。これから新しい隠岐の海を見せたい」と年下の照ノ富士に先を越された無念さを隠そうとしなかった。

　さらに照ノ富士と同じ伊勢ケ浜部屋で兄弟子の宝富士も、「早く追いつけるように頑張りたい」とキッパリ。何せ照ノ富士が入幕したのは昨年の３月。そこからわずか所要８場所で大関へ駆け上がったのである。３年も先に入幕していた兄弟子としては、ようやく新小結に昇進したくらいではまだまだ満足するわけにはいかないだろう。

　当然、同じ平成生まれの新世代の力士たちも、照ノ富士に続けと明らかに意識の変化がうかがえる。モンゴルから照ノ富士と同じ飛行機に乗って来日、鳥取城北高の後輩でもある逸ノ城（湊部屋）は３場所ぶりに関脇に戻り、次期大関候補として存在感をアピールしようとしている。

　「もう８勝とか９勝では意味がない。２ケタ勝たないといけない」と大関への足固めへ向けてやる気満々。さらに平成生まれとしては新三役昇進まではトップランナーとして突っ走っていた高安（田子ノ浦部屋）、抜群の人気を誇る遠藤（追手風部屋）も３月の春場所で痛めた左ヒザの負傷が回復してくれば、すぐに幕内上位に戻ってくるはず。

　元小結の千代鳳（九重部屋）もケガで十両に落ちたが、独特の押し相撲は相手にとってはやりづらいもの。エジプト出身の大砂嵐（大嶽部屋）のパワーも魅力たっぷりだ。

　そして、十両にも埼玉栄高出身の大栄翔（追手風部屋）、恵まれた長身が武器の輝（かがやき＝高田川部屋）、元関脇寺尾の錣山親方が鍛える阿炎（あび＝錣山部屋）、１９歳の最年少関取・阿武咲（おうのしょう＝阿武松部屋）、小兵ながら多彩な決まり手で沸かせる石浦（宮城野部屋）と個性的なキャラクターがそろっている。何よりも幕下１０枚目格付け出しから所要２場所で十両昇進を決めた御嶽海（みたけうみ＝出羽海部屋）の快進撃が、ますます新世代力士たちの勢いを加速させていきそうだ。

　新大関照ノ富士をリーダーとするニュージェネレーションが一気に世代交代を押し進めるのか。それとも白鵬を筆頭とする既存勢力が待ったをかけるのか。世代間の激しい戦いが、大相撲人気をどんどんヒートアップさせていく。

（デイリースポーツ・北島稔大）