ビールの売り子は芸能界の新登竜門か

 先日、多くのグラビアタレントを抱える芸能プロダクション社長とある球場へ野球観戦に行った。といっても、社長が熱心にまなざしを注ぐのは、選手ではなく、ビールの売り子。グラウンドで熱戦が繰り広げられるのをそっちのけでスタンドに目を光らせる。やがて一際目を引くはじける笑顔の売り子に声をかけ、ビールを買いながら名刺を差し出した。「キミ、芸能界に興味ない?」-。

 人気グラドルおのののかが東京ドームで“美人すぎる売り子”として話題となったのをきっかけに、バラエティー番組でブレーク中。千葉ロッテの本拠地QVCマリンフィールドでは、現役売り子6人がアイドルグループ「マリーンズ・カンパイガールズ」を結成し、28日に「カンパイ娘」で配信デビューする。広島のマツダスタジアムで働く売り子もアイドルユニット「C-Girs2015」に参加している。

 カンパイ-のメンバー・今井さやかは「売り子をしながら、芸能事務所に所属している子もいる」と話す。今や「野球場のビールの売り子」が芸能界入りの新たな登竜門となりつつある。取材をしてみると、その理由が見えてきた。

 カンパイ-を手がけるエイベックス担当者は、売り子に狙いを定めた意図を以下のように説明する。

 「現在、アイドルとして求められているのは限りなく素人に近いプロ、もしくは、限りなくプロに近い素人。彼らが頑張っている姿にファンは共感する。若い女性が、重いビール樽(たる)を背負い、さわやかな汗をかきながら、スタンドの階段を笑顔で上り下りする。そういう売り子の姿は、まさに我々が考えるアイドル像にあてはまる」。

 確かにモーニング娘。やAKB48を筆頭とする現在の女性アイドルのキーワードが「素人っぽさ」と「一生懸命」。クラスにいそうな未完成の少女たちが全力でステージで歌い踊る様子に、ファンは声援を送る。その姿は売り子とダブるといえそうだ。

 実際に、人気の売り子にはファンがおり、特定の売り子を目当てに球場を訪れる観客も少なからずいるのだそう。先述の今井は、大学在学中にアルバイトとして売り子を始め、現在8年目。1日に最高590杯を売り上げた記録を持つナンバーワン。多くの“顧客”を抱えている。

 「私を指名してくださるお客さん、数百人はいるかな。中にはビールを飲まずに注文だけしてくれる方もいます。ビールを補充する“基地”が内野にあるため、いつも内野席で樽が空になっちゃう。だから七回くらいになると、待っててくれる外野席のお客さんのところに行かなきゃって焦るんです」。

 ファンのハートをキャッチするテクニックも、握手会でファンに話しかけ、親しみを持ってもらうアイドルと同じだ。

 「ただビールのコップを渡すのではなく、必ず一言添えるようにしています。初めての方には『きょうは暑いですね』とか『マリーンズを応援してくれているんですか?』。おなじみのお客さんには『最近、来てなかったじゃないですか?』とか」。

 生き馬の目を抜く芸能界で、生き残るために最も大切なのはガッツとどん欲さ。先日放送されたフジ系「逃走中」で最後まで逃げ切り、賞金を獲得した先輩・おのが見せたガッツは、話題となったばかりだ。

 “マリンの女王”今井も負けず嫌いだ。「絶対に一番じゃなきゃ嫌。そのためには、とにかく毎試合出勤して、お客さまに顔を覚えてもらうことです」と話し、売り子を続けることで、芸能界にも必要な術(すべ)を身につけてきた。

 売り子として奮闘することが謀らずも“タレント養成所”のように機能し、その中でピカイチに輝く人気売り子は、タレントとしての素養を持ち合わせている。そこに芸能関係者も目をつけている、ということのようだ。

 ちなみに、冒頭に紹介したスカウトされた売り子さんは「芸能界には興味がありません」と企業に就職する道を選んだそうです。

(デイリースポーツ・杉村峰達)

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