幻灯機で見る…当時の日本が見えて新鮮

 デイリースポーツオンラインでは毎月奇数週の水曜日に、映画ジャーナリスト・中山治美のコラム「映画と旅して365日」をアップします。一年中、国内外で幅広いジャンルの作品を見て歩いている筆者が、作品紹介のみならず、映画に携わる人たちの思い、さらに、折に触れて、その土地の食べ物や文化などもお伝えしていきます。まさに、映画と「旅」をする新連載コラム。お楽しみください。(デイリースポーツ)

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 第13回山形国際ドキュメンタリー映画際が10月10日-17日、山形市内で開催された。

 映画祭と言えばコンペティション部門が話題になるが、筆者の目当てはシンポジウムや特集上映。今年は貴重な幻灯機で戦後ニッポンの社会情勢を楽しむ「幻灯の映す家族 Images of Family in the Magic Lantern」に足を運んだ。

 幻灯機を覚えているだろうか?光源とレンズを用いて静止画像をスクリーンに拡大映写するメディアで、脚本をその場で弁士やスタッフが読み上げる。いわば“映像版紙芝居“といった趣だ。明治期に大流行したそうだが、1941年-60年代半ばまでは文部省による幻灯の教育利用推進もあって、社会運動や労働運動の現場で活用されたという。

 今回上映されたのは、新憲法下の個人の自由意思尊重を啓蒙する『トラちゃんと花嫁』(製作年不詳)、出産の偏見を解消する『痛くないお産 第一部 無痛分娩の知識』(55年頃)、農家女性の地位向上と意識改革を促す『暮らしのくふう 嫁の座-農家の婦人の暮らし方-』(54年)、日雇い労働者による自作自演セミドキュメンタリー『にこよん』(55年頃)、労災事故で父親を亡くした子の作文と絵もとにしたアニメ『自転車にのってったお父ちゃん』(56年)の5本。

 学生時代、こうした社会教育映画は「勉強させられている」という感覚が強くて敬遠しがちだったが、今見ると当時の日本が抱えていた問題や一般の人たちの暮らしぶりが見えてきて新鮮だ。しかも、いずれも5-6分の短編なので、多少強引な展開が微笑ましい。『トラちゃんと花嫁』なんて、昔気質のお爺さんが、トラちゃんのお姉さんの結婚に反対しているのではないか?と散々やきもきさせられるのだが、そんな周囲の気持ちをよそに、お爺さんが「ははははッ。新憲法下時代だからのぉ」と結婚を許可する豪快な一言を放って終了する。何ともおおらかな時代の空気を感じさせてくれる内容だ。

 また、会場には『暮らしのくふう-』に出演した山形在住の阿部善勇ご一家が観賞に訪れた。上映後、「農家の嫁のお乳を吸っていた赤ん坊が私です。今じゃすっかり頭も寂しくなってしまいましたが(笑)」という、撮影から59年という月日を実感させてくれる阿部さん家族のナイスな挨拶もあり、会場は爆笑に包まれた。

 同特集上映を企画した映画研究者の岡田秀則さんは「幻灯というメディアは、草の根の文化や社会が見える貴重な記録です」と語る。この幻灯上映は、多くのフィルムを保存している神戸映画資料館などで企画上映される事もあるので、機会があったらぜひ観賞して頂きたい。(映画ジャーナリスト・中山治美)

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