元虎戦士・藤本敦士 引退手記【3】

 今、トリ(鳥谷)が主将として阪神を引っ張っていますね。思い出すのはあいつが加入した04年。ポジションがかぶる僕らは、メディアのかっこうのネタになりました。2人をバチバチにさせるようなコメントを求められたけど、絶対その手に乗らへんぞって(笑)。たぶん、トリも僕と同じで「うるさいなあ」と感じていたはずです。あのときの正直な思いを話せば、ポジションを奪われたくない気持ちもあったけど、セカンドへコンバートされてでも、試合に出たいという気持ちの方が強かった。メディアにはいろいろと書かれていましたけど、僕とトリの間には何のわだかまりもありませんでしたよ。それどころか、よく一緒にいましたからね。

 前の年(03年)、僕は3割を打ちましたが、ホームランは0本でした。たとえ、打率が2割7分でもホームランを15本くらい打った方が、チームに貢献できる。将来的にホームランを打てる可能性を秘めた選手と、そうでない選手なら、監督はどちらを使いたいか。僕自身、客観的に、そんなふうにも考えていました。もちろん、チーム事情もあったでしょう。でも、結局は力の世界。ポジションを譲りたくなければ、自分がもっとうまくなればいい。誰にも文句を言わせなければいい。それだけのことですからね。

 入団当時と比べて、あいつの守備はみちがえるほどに良くなったと思います。ボールに対する一歩目もそう。簡単なように見せているけど、全く軸がぶれない。人工芝の球場が増える中、土の甲子園であの安定感。体調管理をしているからコンディションもいい。日本一のショートだと思います。

 阪神時代は、応援もヤジも励みになりました。ファンの方にケツをたたいてもらいましたから。甲子園の大観衆の前でプレーできたことは、うれしかった。優勝して、一緒に泣いてくれるファンを見て、優勝できて良かったなあ…と思いました。甲子園で最後の打席に立たせてもらったとき、ライトスタンドから、阪神時代の応援歌がはっきりと聞こえました。絶対泣かんぞって我慢していましたが、ダメでした。甲子園には思い出がいっぱいつまっていますから。

 阪神ファンに恩返しをするという意味でも、ヤクルトへ行って、微々たる貢献しかできなかったことは、残念です、アマチュアのときは、苦しいなんて思ったことは一度もありませんでした。野球ができる喜びの方が強かったので。プロに入ってから一番つらかったのは、結果が出なかったとき。そういう意味では、スワローズファンの前で活躍できなかった今年が、一番苦しかった。ヤクルト球団、ファンの方々に支えられなければ、ここまでやれなかった。1000試合出場の機会を甲子園球場でつくってくださった小川監督、チームメート、スタッフの皆さんには、感謝の言葉しかありません。

 神宮球場で迎えた現役生活最後の打席は、空振り三振でした。思い切りバットを振ったので、悔いはありません。ベンチに戻ると、宮本さんから「打てないから引退するんやろ」と言われ、「その通りです」と答えました(笑)。ライトスタンドからのカーテンコールは、まさかと思ったけど、めちゃめちゃ、うれしかった。ヤクルトファンの皆さん、あまり貢献できなかった僕に、優しく温かいご声援、本当にありがとうございました。

 これからはネット裏で野球を見ることもあると思いますが、ヤクルトと阪神、両チームをひいき目で見てしまうでしょうね。ヤクルトの若い選手には、有名になっても調子に乗るなよ!とは言っています(笑)。来年は、ヤクルトと阪神でリーグ優勝を争って、巨人の連覇を止めて欲しい。それが僕の願いです。13年間のプロ野球人生に悔いはありません。皆さんに支えられ、ここまでこられた僕は、幸せ者です。もう、泣きません。この前、甲子園でいっぱい泣いたんで…。野球と出会えたこと。ファンの皆さんと出会えたこと。これからもずっと、僕の宝物です。(ヤクルトスワローズ内野手・藤本敦士)

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元虎戦士・藤本敦士 引退手記【2】

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