【野球爺のよもやま話】甲子園の雰囲気に舞い上がり悔しい初戦敗退 66年夏の広島商

 元中国新聞記者でカープ取材に30年以上携わった永山貞義氏(71)がデイリースポーツで執筆するコラム「野球爺のよもやま話」。広島商、法大でプレーした自身の経験や豊富な取材歴からカープや高校野球などをテーマに健筆を振るいます。

  ◇  ◇

 「盛夏」。その季語を問われれば、真っ先に「夏の甲子園」を連想するのは私だけではあるまい。毎年、この時期になると思い出すのが、50年以上も昔の熱い夏。休日には碁会所に行き、ザル碁を打って退屈な時間を消去している今の私にも、甲子園に青春を燃やした一時期が確かにあったのだ。それはうれし、恥ずかしの思い出でもある。

 甲子園への道を記すと高校2年(1965年)の夏、野球のルールを知らずに敗れた広島大会の準々決勝、福山電波(現近大付福山)戦からスタートしたと思っている。その概要を新聞の戦評風に書くと次の通り。

 福山電波は七回2死満塁からの左前打で2者が生還し、均衡を破った。しかし、二塁走者が三塁ベースを踏んでおらず、アピールでアウトになったため先制点は1点止まり。広島商は九回、同点にしたものの、その裏2死二塁からの一打を右翼、永山の前に落とされサヨナラ負けした。

 この記事に「?」と首をかしげた人は野球博士級。野球規則では福山電波が挙げた先制点のような場合、第3アウトがアピールアウトになったため、得点は記録されないらしい(野球規則7・12)。それに気づいた広島商は翌日、1-1のタイスコアとして再試合を申し入れたが、後の祭り。かくして本来なら負けていないのに、2度も悔し涙を流したのだった。

 この試合の相手エースはヤクルト、巨人で活躍した浅野啓司投手。新チーム後の県秋季大会も零封されたとあって、「打倒浅野」が一つの目標となった。このため大分商の怪腕、河原明投手(西鉄)を浅野に見立て、快速球に目を慣らしたこともある。ちなみに村田兆治投手(ロッテ)は浅野投手の一つ年下。福山電波とは練習試合をしたが、その時の相手が村田投手だったかどうかは定かでない。

 そのほか選抜大会で優勝した中京商(現中京大中京)や同大会の優勝候補筆頭だったPL学園にも出向き、全国レベルの野球を肌で感じ取った。当時のPLは阪急で首位打者、打点王などを獲得した加藤秀司外野手や加藤英治投手(近鉄)、中京商には加藤英夫投手(近鉄)、伊熊博一外野手(中日)といった高名な選手がいた。結果はPLには連勝、中京商には1勝1敗。これで十分な手応えをつかんだ私たちは広島大会で勝ち進み、9年ぶりの甲子園切符を手にしたのである。

 ここまでは青写真通りの展開だったが、肝心な甲子園大会の1回戦、桐生(群馬)戦での私のパフォーマンスは、穴があれば入りたいほど恥ずかしいものだった。まず一回、ランエンドヒットが決まって一塁から三塁に向かう際、二塁ベースを踏み損ね、慌てて帰塁したのが最初のミス。直後に三盗に失敗し、相手投手を立ち直らせてしまった。さらにはまた二塁走者になった際、中直で飛び出し、併殺となるミスもおかしている。こうした拙攻、拙走の連続で11安打を放ちながらわずか1点。山本和行投手(阪神)が6安打に抑えたものの、3点を奪われ敗れたのである。

 当時の相手監督は「知将」と言われた稲川東一郎氏。この試合でも3-1とリードしているのにもかかわらず、六回2死一、二塁の場面で打席に立った三村敏之内野手(広島)を敬遠。この奇策の成功に世間は目を見張り、同時に強打者三村の名前も全国に知られたのである。

 ともかくも、これほどドタバタした原因は明らかだった。私を筆頭にみんなが甲子園にのまれ、舞い上がっていたのだ。こうした精神状態については、広島新庄高前監督の迫田守昭氏が今年5月22日付の中国新聞で代弁してくれている。「指導者になっても、あの場に立つと足が震える…。(中略)。経験してみないと分からないけど、経験していないからこそ、皆が憧れる場所なんだ」。それが甲子園の魅力と魔力というものなのだろう。

 この大舞台では今、新型コロナウイルスの影響でセンバツ出場校による交流試合が行われている。これらナインの喪失感は幾分、癒やされただろうが、最後の夏を地方大会止まりで終えた選手の気持ちはどうだったか。高校時代のわが身に置き換えると、きっと地団駄を踏んで悔しがったに違いない。

(元中国新聞記者)

 永山貞義(ながやま・さだよし) 1949年2月、広島県海田町生まれ。広島商高-法大と進んだ後、72年、中国新聞社に入社。カープには初優勝した75年夏から30年以上関わり、コラムの「球炎」は通算19年担当。運動部長を経て編集委員。現在は契約社員の囲碁担当で地元大会の観戦記などを書いている。広島商高時代の66年、夏の甲子園大会に3番打者として出場。優勝候補に挙げられたが、1回戦で桐生(群馬)に敗れた。カープ監督を務めた故・三村敏之氏は同期。元阪神の山本和行氏は一つ下でエースだった。

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