もう一度乗りたい!「伊予灘ものがたり」 ~まもなく10周年を迎えるJR四国の観光列車~

 全国に観光列車は数あれど、「もう一度乗ってみたい」と思わせる列車はそうはないだろう。愛媛県の瀬戸内海沿いを走る「伊予灘ものがたり」は高い人気を誇り、なかなか予約が取れないことで有名。リピーター率も高く、5月18日に乗車20万人を達成し、7月26日には運転開始から10周年を迎える。そんなJR四国自慢の観光列車に「乗り鉄」のオッサン記者が〝再訪〟。改めてその魅力に迫った。

 16時過ぎ。ローカル線ムード満点の八幡浜駅で、「カラカラカラ…」とディ-ゼルエンジンをアイドリングしながら「伊予灘ものがたり」は発車を待っていた。茜色から黄金色に変わるグラデーションのキハ185系3両編成。もう一度この列車に乗ってみたかった。乗車口で女性アテンダントに2回目だと告げると「お帰りなさいませ。リピートされるお客様も多いんですよ」と、笑顔で迎えてくれた。 

 「伊予灘ものがたり」は、予讃線・松山から伊予大洲、八幡浜間を1日4便運転され、時間帯によりそれぞれ「大洲編」「双海編」「八幡浜編」「道後編」と名付けられた4つの列車の旅が楽しめる。今回乗車したのは「道後編」。夕暮れ時に海外沿いを走ることから、4便の中でも人気が高いそうだ。2014年7月26日に運転が始まって現在の車両は2代目。国鉄末期に製造されたキハ185系気動車を改造した3両編成だ。少し無骨な国鉄型の特徴を残しつつ、色鮮やかな外装とレトロモダンな車内がさらに人気を呼び、5月18日には乗車20万人を達成している。

 私が座った座席は2号車の「黄金の章」。改造前の種車・キロハ186の特徴でもあったズラリと並んだ小窓を生かして、海側に一列に並んで座席が配置されている。緑色の座席や間接照明を巧みに使った車内はまるで「走るカフェ」。Wi-Fiも完備され、充電用コンセントが装備されているのもうれしい。

 16時14分、女性アテンダントが発車ベルならぬ銅鑼を鳴らして列車はゆっくりと八幡浜駅を離れ始めた。発車してすぐ、沿線の多くの人々が手を振る姿に驚いた。ベランダから愛犬を抱いて出迎える老夫婦、ガソリンスタンドで大漁旗を振りかざす男性、お手製のうちわや歓迎ポスターを作成してシャボン玉まで飛ばすなど、車内のこちらが照れるほどの歓迎ぶりだ。「沿線の皆さんには列車が走る時間帯はお知らせはしてるんですが、本当に〝仕込んで〟ないんですよ」と、JR四国の関係者が説明する。土讃線を走る「四国千年まんなかものがたり」とともに、四国の観光列車は沿線の人々としっかりとした絆で盛り上げていることを改めて感じた。

 やがて、この列車最大の楽しみである料理が運ばれてきた。「伊予灘の菓織箱」と称するアフタヌーンティーセット。松山市内でパンと菓子で人気の「プチ・パリ」がプロデユ-スしている。陶器製の重箱を開けると「わあっ!」と声をあげてしまった。苺のクランブルタルトや桜のフィナンシェ、スコーンなどオシャレでボリュームあるメニューが色鮮やかに詰め込まれており、宝石箱のようだ。地元の砥部焼で作られたティ-カップはしっかりと湯せんで温められており、細かい心配りがうれしい。季節ごとにメニューも変わるという。伊予柑の紅茶の香りを楽しんでいると、車窓には午後の日差しに反射した伊予灘の絶景が広がってきた。

 列車は「日本で一番海に近い駅」「青春18きっぷ」のポスターで知られている下灘駅に到着した。ホームに降りてみると、観光客など多くの人々が待ち構えており、ちょっとした混雑だ。夕陽に輝く伊予灘と、駅のホーム、列車をセットにした写真がSNSなどで「映える」と大人気だそうだ。みな思い思いにカメラやスマホのシャッターを切り続けていた。「レンズを列車の下から見上げるように写すと(駅と海岸の間を走る)国道が写らず、海に浮かんだように見えますよ」と教えてくれたのは、バイクで訪れていた地元の「撮り鉄」学生さん。もう数え切れないほど下灘駅を訪れているそうだ。日没にはまだ時間があって伊予灘に沈む夕陽を撮ることはできなかったが、それでも光り輝く海面と下灘駅のローカルムード満点の雰囲気に大満足だ。

 9分間の停車後、列車はなごりを惜しむように下灘駅を発車した。座席に戻ると、食事の途中で席を離れていたので、女性アテンダントが料理にラップをかけていてくれた。細かい心配りにまた感心した。アテンダントの乗車記念のボード撮影サービスや、オススメ上手なオリジナルグッズの販売もあり飽きることはない。

 終点の松山駅に近づく時、河川敷で練習をしていた少年野球の子どもたちが帽子を振っていた。最後の最後でまた胸がキュンとした。料理でお腹いっぱいになり、伊予灘の車窓に感動でいっぱいになり、沿線の人々のもてなしに胸がいっぱいになる。旅行なのに、なぜか故郷に帰ってきた郷愁を感じさせる列車だ。乗車時間はたっぷり2時間以上。それでいて料金は食事をふくめてリーズナブルな1万円弱。リピーターが多いのもうなずける。

 運転開始から10年、7月には松山市の道後温泉本館も約5年半ぶりに全館営業を再開する。温泉とセットもよし、伊予大洲の城下町を楽しむのも良し。4つの列車の旅を選べる「伊予灘ものがたり」。この夏、出掛けてみませんか?

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