日本一短いローカル私鉄 紀州鉄道2・7キロ~ガタゴト8分の旅

 のどかな田園風景をのんびり走る紀州鉄道KR205型
 まるで昭和にタイムスリップしたかのよう
 
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 紀伊半島に「日本一短いローカル私鉄」を名乗る鉄道がある。和歌山県御坊市の「紀州鉄道」は全長わずかに2・7キロ。前身の「御坊臨港鉄道」から地元の人々に「りんこう」の呼び名で親しまれ、廃止にもならず黙々走り続けて86年。最高時速30キロ、8分間の「小さな旅」に出かけた。

 ◇   ◇

 中学生のマラソン大会だって3キロぐらいは走るだろう。歩いたって小一時間もあれば3キロなんかすぐだ。それよりも短い2・7キロの距離を、紀州鉄道は走り続けている。

 御坊駅0番線で発車を待ち構えていたのはKR205型。滋賀県の信楽高原鉄道からやってきて今年の4月から走り始めた“新型”だ。発車するとすぐ左にゆるやかなカーブ。体をゆすりながらゆっくりと通過する。小さな踏切、小さな鉄橋を渡りながら加速。それでも最高時速は30キロだから、車内には緩やかな空気が流れる。

 1日の運転本数は20本、平均乗客数は300人。朝夕の通学ラッシュには沿線の高校に通う学生たちが利用する。雨の日になると、1両に乗り切れないほど満員状態になることもあるとか。日中は乗客もまばらだが、病院通いの高齢者の貴重な足となっている。

 社員は12人。うち5人の運転士が交代で乗務につく。「人が少ないんで何でもやるんですよ」と鉄道事業部・運輸課長の大串昌広さんは静かに笑う。運転だけでなく、車両の整備、点検、保線や駅業務…。列車を安全に走らせるために1人何役もこなしている。

 1931(昭和6)年から前身の「御坊臨港鉄道」時代から86年間、よく廃止にならずに走り続けてきたものだ。実はこの紀州鉄道、鉄道だけでなく、ホテルやリゾート事業を展開するグループ会社。一時、廃止の話も上がったことがあるそうだが、「なんとか列車は走らせ続けよう」と、“グループ一体”となって走らせている。

 「若い社員も入って、企画も色々やってます」と大串さん。オリジナルグッズをはじめ、地元高校生が発案したキャラクターを採用したり、ハロウィーン列車や枕木交換体験イベントなどアイデアも満載。クリスマスにむけてのイベントも検討中だという。

 列車は田園から街中に入り、西御坊駅にゆっくりと到着した。雑草が生い茂る行き止まりの線路が郷愁を誘う。振り返れば細く長く延びる線路を野良猫が横切った。時に優しく、時に楽しく、時にもの悲しく…。紀州鉄道には一人旅が似合う。

◆アクセス 御坊へは天王寺からJRきのくに線特急「くろしお」で約90分。御坊駅で紀州鉄道0番線と直結

◆距離 御坊~西御坊間2.7キロ、5駅

◆料金 御坊~西御坊間 おとな180円

◆在籍車両 気動車2両(KR301、KR205)

◆運転本数 1日20往復

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