ツバメのバトンを思う秋
【9月21日】
青木宣親から聞かれたことがある。
「風さんって、この仕事がもともと好きで記者になったの?」
何年前だったか。長閑な時間が流れる沖縄でそんな話になった。
僕の答えはもちろん「イエス」。学生時代から「書くこと」「人に会うこと」が好きで、今も変わらず好きだから、やり甲斐はこのうえないわけだ。
青木といえば、個人的に大きな敬意を抱く選手だったから、いつも彼に聞きたいことは山ほどあった。そのうちの一つが将来像、セカンドキャリア。間違いなく指導者をやるべき人だけど、本人はどう思っているのか。
もうあれから1年。秋風に触れながら、昨年の神宮を思い起こす。プライベートでここに来てミスタースワローズ最後の勇姿を目に焼きつけた10月2日。引退セレモニーで観客席から「泣かないで~」と声援を送られた青木は「そりゃ泣きますよ…」と笑いを誘っていた。とにかく、まっすぐで本音をねじ曲げない男だ。
引退会見で「彼らしいな」と感じたのは、ずばり「監督への意欲」について聞かれたときだ。
「やってみたいです。監督は、やってみたいです」
このアンサー、気持ち良かった。
いま、もし阪神の候補者が同じ質問をされれば…。ぜひ、この先ずっと青木のように答える人がやってほしいと思う。というのも、藤川球児がおそらくそうだったから…。球児が成功しているのは阪神を強い組織にしたい意欲に溢れ、嫌々就任したわけではなかったから…。臆測で書くと怒られるか。
背番号1、ミスタースワローズの系譜でいえば、この夜は「トリプル3の山田哲人」が甦ったようなゲームになった。3本目のHとなった五回のフェン直は、長打にできるコースだけ待っていたようなスイングに見えた。あまり勝手なことは書けないが、早くも新政権の来シーズンへ向け、気持ちが乗ってきているように見える。
私事だけど、光栄なことに上場企業の経営者と定期的に付き合いがある。その方々に聞けば、職を任せるときは適性を見ながら「やりたい人」にやらせるべきだと仰る方が多い。やりたくない人にやらせても「成果率が上がるわけない」のだから、と。
上がりそうもないか…。六回に強まった神宮の雨脚を眺めながら、お隣の国立競技場を思った。ゲーム中断の間に世界陸上男子4×100m決勝が始まった。この強雨が日本のバトンにどう影響しただろうか。桐生祥秀が金本知憲との2ショットをケータイの待ち受けにしていた頃を懐かしみ…。
いやいや、こっちは雨の神宮に集中しなければ…。そういえば、青木とのこんなやり取りも思い出した。
ヤクルトのどういうところが好き? 「職場は楽しい方がいい。明るく前向きにしやすい環境がヤクルトにはあると思うので…。それはもう、自分も伝統として受け継いできたつもり」
来季は本紙評論家でお世話になった池山隆寛か。背番号1の系譜…敵将のバトンも気になる秋だ。=敬称略=
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