「いい打者」だと思う証し

 【9月18日】

 友人が広島に来ていた。いま闘病中の彼だけど、行きたいところへは行くし、会いたい人には会う。初戦は雷雨でびしょ濡れだったので心配したが、この夜は溌剌と強虎を応援していた。

 もともと虎番仲間で同い歳。いつも「友人」と書くのは、仕事を離れても付き合える人間だから。よく選手を交えてメシへも行った。そういえばかつて、ある野手とその友人と3人でテーブルを囲んだ夜に同じ店に現役時代の藤川球児が居合わせたことがあった。こっちがたらふく食べて会計したら、店員さんが…

 「さきほど藤川選手がお支払いになって行かれました」

 感謝…。3人で顔を見合わせると、その友人は「あいつ…」。そう。この友人は昔から球児のことを「あいつ」と呼ぶ。親しみと敬意を込めて。何より球児がそれを認めているから両人の関係性は羨ましいほどに成り立つ。

 それはそうと、こちらの両人の関係性はどうなんだろう。ともに98年生まれ。ともに兵庫県出身…。

 才木浩人とカープ石原貴規である。

 気になっていた…。リーグ制覇を決めた今月7日、石原への危険球で退場とした才木が胴上げの輪に加わる前に三塁ベンチへ頭を下げた。

 「何もなく喜ぶのはできない。石原さんが手をあげてくれていたので、ちょっと気持ちは楽になりました…」

 学年は石原がひとつ上。同郷ながら面識はなく、「あいつ」と呼べる間柄でもない…。あの日は早々に才木が球団広報を通して謝罪したと聞いていたけれど、石原の胸中を知りたかった。この日、カープの練習にお邪魔して聞いてみると彼はこんなふうに言った。

 「(才木は今シーズン)デッドボール、全然当ててないそうですね。今年もすごくいいピッチングをして優勝に貢献した投手があの1球だけで優勝の瞬間に喜べないとなればすごく気の毒じゃないですか…。せっかく一年間頑張ってきたのに…。ガッツリ(頭に)当たったわけではないですし、僕は全然大丈夫だったので、全く気にしないでほしいという気持ちでしたよ」

 才木は今季150イニング以上投げて与死球はあの1球のみ。これは臆測だけど、捕手目線で俯瞰すれば「8番打者の自分」に当てたのはもったいない…とも石原は感じていたのかも?

 そんな石原がスタメンだったCT最終戦だ。阪神戦でマスクをかぶれば、とくにクリーンアップにはやっぱり厳しいところに構える。

 「いい打者は外だけでは打ち取れないですし…。インコースを攻めるのはこちら(バッテリー)が『いい打者だと思っている』ということですから」

 この夜、森下を抑えられなかった悔恨はあるに違いない。あの先制弾はインコース。バッティングカウントから決して甘くはない直球をドカンとあそこまで…。記者席からは配球を読んだように見えた。森下を褒めるしかないと思うが、鯉バッテリーは勉強代を支払ったと考えるだろうか。こちらの視点で書けば、ただただ頼もしい限りの背番号1である。=敬称略=

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