一人では生きられない

 【9月11日】

 マウンドで吠える大竹耕太郎を眺めながら、ヒーローインタビューで感謝を伝える背番号49を見ながら、島根県の山あいを懐かしむ記者はおそらく僕ひとり…だったと思う。 

 私事だけど、島根というこれまで縁もゆかりもなかった地で長い時間、お世話になった。22年から3年間。阪神でいえば矢野燿大政権の最終年から岡田彰布政権の2シーズンが終わるまで…。週末、西宮から往復8時間かけて通った。幸せな時間。感謝しかない。

 地図を見れば分かるが、島根といっても広い。県庁所在地の松江市、出雲大社のある出雲市…このあたりは全国的にもメジャーなスポットがあるので毎年たくさんの観光客が訪れる。じゃここで阪神ファンの方に聞く。

 糸原健斗が育った雲南市はご存じ?県東部、松江と出雲の南に隣接する自然豊かな街で、いつだったか、雲南の大東(だいとう)野球場の写真を撮って糸原に送れば、「めちゃくちゃ懐かしい…」と声を弾ませていた。

 じゃ、もういっちょう。浜田市は?

 浜田…。阪神にゆかりある?

 矢野政権でヘッドコーチを担った清水雅治(現日本ハムファーム総合コーチ)が浜田出身。栗山英樹率いる侍ジャパンでは一塁コーチャーとして世界一に…23年まで母校浜田高の野球部で特別顧問を務め甲子園出場も叶えた。

 松江の球場、そのネット裏で清水とともに浜田高の試合を観戦したときはここで一緒になるのも「不思議な感じですねぇ」と笑い合ったことも…。

 おいおい、大竹はどこいった。

 それがね、松江から遠く離れた浜田へ足を運ぶと、聞こえてくるんです。

「人柄がほんとすばらしい」。大竹が師と仰ぐ人を称える声がたくさん…。

 浜田高校のレジェンドといえば…

 梨田昌孝、清水雅治、そして、和田毅である。ホークス時代から和田を心酔する大竹に聞いたことがある。

 「和田さんから何度か言われたことがあります。『一人では野球はできないんだよ』と…。捕ってくれる人、守ってくれる人、支えてくださるトレーナーさん、チームのスタッフの方がいて、対戦相手がいて…。このどれか一つでも欠けたら、そもそも選手として成り立たない。もちろんファンの皆さんもそうです。そういうところの有り難みというか、常に『一人では生きられないんだよ』ということを…」

 時計の針は20時14分。打たせて取る投球で3人で封じたイニングを8つも作った。野手の皆さん、打たせます…そんな装いで凡打の山を築いた。お立ち台では決勝弾を放った森下翔太に「ありがとう」。そして「お客さんのために一生懸命頑張りました」「野手が気持ち良く守れるように…」。コメントひとつひとつを聞けば、師の教示を大切にしていることが伝わってくる。

 「長くやるためにはそういうところは大事になってくると思いますし、そういうのは和田さんを見て感じるところなので見習っていきたいなと…」

 そんな言葉も聞いたことがある。目いっぱいの感謝がこもった104球。大竹は一人じゃなかった。=敬称略=

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