卵をぶつけられない野球

 【9月28日】

 フランスのマクロン大統領がリヨンで開かれた国際見本市を視察中に「ゆで卵」のようなものを投げつけられた。以前は地方視察の際に見知らぬ男から平手打ちをされたり、散々な目にあっている。

 日本じゃ総理がモノを投げつけられたりビンタされたりしない。警備体制を褒めるべきか、治安を誇るべきか。そう考えたりもするけれど、卵を投げつけた者へ「言いたいことがあるなら、こっちに来るべきだ!」と応戦した大統領を見るにつけ、国、いや、国民性のチガイか?なんて思ったり。

 人に卵を…。そんなシーン、なかなかお目にかかれない。だから僕は希少な記者なのか…。

 あれはデイリースポーツ入社2年目の96年5月。当時ダイエーホークスの監督だった王貞治ら選手が乗ったバスが、試合後ファンに囲まれ立ち往生。生卵が投げつけられる事件があった。場所は近鉄バファローズの本拠・日生球場。王ホークスは1年目5位で、2年目は開幕から最下位に沈み、鷹党の怒りが爆発したというわけ。

 ホークスは18年連続Bクラスに甘んじていた。あの夜も投手が四球を連発、守ってはエラーの連鎖で試合が壊れ、近鉄に大敗。「貞治、解任!」「パの恥」「謝れ」などと、数百人のファンから罵声を浴びていた記憶が鮮明に残る。

 しかし、世界の王の凄みはここからだった。「生卵事件」から3年後の99年、ホークスはパ・リーグを制し、日本シリーズでも中日を圧倒、日本一に輝いたのだ。

 「卵をぶつけられるような野球をやっているのは俺たちなんだ。だからこそ、ぶつけられないようにしようじゃないか。あの連中に喜んでもらおうよ」

 あのとき、王はミーティングで選手達にそう語りかけたという。 「フランスが落ちぶれた象徴」とマクロンは揶揄されるが、王貞治も当時は「ホークスが落ちぶれた象徴」として叩かれたのだ…。

 生卵は見なかったけれど、金本政権の過渡期を乗り越えた虎である。てっぺんを獲る為に、この夜は秋山拓巳を勝たせねばならなかった。そんな一戦でミスが出た。

 秋山が最少失点で凌いでいた五回にJ・マルテが痛恨の失策を犯した。犠打を処理したまでは良かったが、一塁へ悪送球。これが失点に繋がってしまった。

 この試合、2つの失策が出た。ひとつ目は秋山が自ら招いたミスを自らの快投で切り抜けた。しかし、マルテの失策は…全員でカバーすることが叶わなかった。

 これで阪神の失策数は両リーグ最多「79」に…いや、実は当欄、この類のハナシを意図的にここまで書いてこなかった。指摘したところで上向くわけじゃなし。不毛だから。実はきょうもネガティブに書き殴るつもりはない。というか、こうなれば4年連続両リーグ最多失策の優勝チームを見たい。他意はない。見方を変えれば、それだけミスしても皆でカバーできた全員野球の証し…なのだから。

 「我々は勝つしかない。勝てばファンも拍手で迎えてくれる」

 王貞治の名言だ。=敬称略=

関連ニュース

編集者のオススメ記事

吉田風取材ノート最新ニュース

もっとみる

    スコア速報

    主要ニュース

    ランキング(阪神タイガース)

    話題の写真ランキング

    写真

    リアルタイムランキング

    注目トピックス