めちゃめちゃ楽しんで

 【9月2日】

 サッカーをゆっくり観戦した。東京パラリンピックのブラインドサッカー・スペイン戦も白熱したけれど、やはりこの日は、カタールW杯のアジア最終予選である。ああだこうだ楽しみ、堪能した。

 ずっとサッカーをやってきて、サッカーが好きで楽しくて、だからサッカーを取材したくて、この世界に飛び込んだ。サッカー担当へ異動したときは胸が高鳴った。とくに日本代表の取材は格別。それも、五輪やW杯となれば心拍数が上がりっぱなしで。

 夢だった「W杯決勝の取材」をやりきったあとは、大学時代の友人らから「最高やん!」と羨ましがられたりもしたけれど、実をいえば……苦痛だった。

 贅沢な…って怒られそうだけど何が苦しかったかといえば、やるのも見るのも好きで楽しいものが「仕事」になったからだ。とりわけ代表戦ではキックオフと同時にこちらも戦闘モード。モニターが完備され、VTRが流れるプロ野球スタイルの記者席なんて当たったことがない。3-5-2?4-2-3-1?試合中システム変更があれば、逐一メモに記し…終了すれば、ミックスゾーンで虎番とは比較にならない数の報道陣に埋もれ、ペンを走らせる。夜の試合は野球より時間がずっとタイトで…サッカー担当時代、サッカーを楽しんだことは一度もなかった。 やっぱり、好きなサッカーは楽しみながら…いつしか、そう思うようになってしまった。

 阪神戦が雨で流れた夜に、何を書きたくなったか。やっぱり、シゴトは「楽しめるに越したことはない」ということを…ふと、佐藤輝明を思いながら。

 夏の甲子園大会中、輝は高校野球ファンへ向けた朝日放送のインタビューでこんな話をしていた。

 大切にしていること?

 「『楽しむ』ということじゃないですかね。今(8月前半)もめちゃめちゃ楽しんでいますので」

 ホームランへの想い?

 「トレーニングした結果、ホームランをいっぱい打てるようになったのが、すごく嬉しかった。野球で一番面白いのはホームランだと思っているので…」

 野球を楽しむ。オーバーフェンスの虜になる。そんな輝だから、ベンチを温める今の心持ちは想像がつく。厳しい世界で「楽しむ」には、結果を出すしかないわけでそのために鍛錬を積み上げるしかないことも分かる。輝はよく練習をすると聞くし、またその練習に耐えうる体力も備わると聞く。

 好きなことをシゴトにして、高い報酬を手に入れ、なおかつ楽しむ。それができるのは、ごく限られた者であり、また、輝にその才があることをファンは知る。

 これは、雨で先発登板が流れた藤浪晋太郎にも言えること。選ばれしプロの中でもさらに選ばれし者だから、ファンは彼らの輝きを観るために球場へ足を運ぶ。

 サッカー界では久保建英もそうだ。この夜、吹田スタジアムでベンチスタートだった久保のギラついた目を見ながら、晋太郎や輝の心を思った。=敬称略=

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