ファミリーになる年

 【7月8日】

 うぉ~。思わず叫んだ。大山悠輔の決勝弾にももちろん声をあげたけれど、その2イニング前のシーンである。1点を追う六回、J・サンズの安打で巡った好機でJ・マルテが見逃し三振に倒れた。 ヤクルトのA・スアレスが投じたフルカウントからの6球目は外への変化球。「選球眼の鬼」は自信をもって見送ったが、球審の手があがった。厳しい判定だった。

 「外角のストライクゾーンが広いというのは確かにあった。ただひとつ言えるのは、そういう“差別”はあるかもしれないけど、これは日本だけのことじゃないってこと。(中略)メジャーでも1年目の選手のストライクゾーンは広いけど、だんだん実績を積んでスタープレーヤーになっていけば、ゾーンは狭くなっていく」

 かつて「Number」のインタビューでR・バースは日本のストライクゾーンに於ける外国人選手への“差別”についてそう回想していた。いや、マルテがそれを感じているか、本人に確かめたことはない。昔バースが感じたものが、今も僅かに残っているとすれば…また、その解決法が「日本でスタープレーヤーになること」であるならば、マルテは今年その条件を満たすかもしれない。

 必勝で臨んだ神宮でレフトスタンドへ先制弾をたたきこんだマルテである。四回に逆転を許し、激しい雨脚とともに重苦しい空気が流れた中盤の攻防は、あそこでマルテが四球を取れば、虎へ流れが来るところ。この判定が響かねばいいがと願いながら…大山悠輔の劇的アーチに酔った夜だった。

 そういえば…こっちは〈差別違い〉だけど、FCバルセロナの2選手が日本人、アジア人差別とも取れる動画を拡散された問題で同クラブとスポンサー契約を結ぶ楽天の会長・三木谷浩史がバルサに抗議する意向をツイッターで表明した。選手は謝罪の意を表明したが、三木谷は「どのような環境下でも許されるものではない」と投稿。バルセロナ側は謝罪声明を発表した。彼ら2選手に侮辱された側=日本人として、またサッカーを愛してきた者としても残念だし欧州で活躍する日本人プレーヤーも侮辱されることがあるのか…と考えるだけで寂しくなる。

 野球でいえば、伊良部秀輝から聞いたことがあった。あれは星野阪神が優勝した03年のシーズンオフ。一緒にテーブルを囲んだ際にメジャーの観客席から浴びせられた〈日本人への差別的発言〉を伊良部は生々しく教えてくれた。それはもう聞くに堪えないものだ。

 日本のプロ野球史でも「昔はあった」と聞くけれど、僕の取材キャリアに於いて、虎党のそんな行為は見たことがない…どころか、虎党の助っ人への愛着を特に感じる21年は、そこに絆さえ見える。

 「私は日本球界のファミリーになっていったんだと思う」。バースがそう語ったように、“判定の差別”がなくなったのは「来日3年目あたり」だったという。

 そう。マルテは来日3年目。日本でスターになり、日本のファミリーになる年であれ。=敬称略=

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