パンダから学ぶこと
【7月6日】
八回無死一塁で4番に出番がめぐってきた。4-0から終盤に追加点を…J・マルテである。前打者のJ・サンズが四球で出塁して得た好機。しかし、3ボールからの4球目は高く浮いた。
明らかなボール球。四球で無死一、二塁をつくって5番の佐藤輝明へ…いや、マルテは振った。フルスイングで、ヤクルト大西広樹が投じた148キロのまっすぐを狙った。ファウルで、3-1。
前の打席で四球を選んでいたマルテは、ご存じのように、選球眼の鬼。リーグ最多、ヤクルト村上宗隆に次ぐ四球数を誇る男が、神宮のレフトスタンドを射程に定めた大振りでスタンドを沸かせた。
オレは4番なんだ。オレはタイガースを優勝させるためにここにいるんだ-。
マルテを見ていてそんな気概をよく感じる。
調子が下降気味になれば、外野が騒がしくなる球団であることも知る。事実、今シーズン何度もそんな話が新聞で論じられた。数打席、快音から遠ざければ「矢野燿大監督はマルテを休ませたほうがいい」「足に爆弾を抱えているんだから」-。
しかし、その度、マルテは「シャラップ!」とばかり、大きな仕事をしてきた。
オレは、ベンチへも、ファームへもいかない。
そんな反骨心を感じるのだ。
猛虎の助っ人が神宮ででっかい花火…。いやぁ、思い出すんだよなぁ、パンダのフルスイングを…。
あれは17年だからもう4年も前になるのか。
9月の終わり。それまでファーム暮らしだったパンダ…そんなニックネームの助っ人J・ロジャースがここ神宮で大きな仕事を果たした。昇格即スタメンで5号2ランを含む3安打猛打賞。記者席から眺めたセンター左への大きな放物線は忘れられない。
そしてもう一つ忘れられないのはパンダのヒーローインタビュー…その中身ではなく裏話である。
あの夜、球団広報が文句なしの殊勲者に声をかけ、ヒーローインタビューを促すと、ロジャースは明らかに本意でないような面持ちで大きな息を吐いた。
「オレはタイガースを優勝させるために来たんだ…。こんな時期になって打っても…」
元メジャーリーガーのプライドか。そんな類の言葉を漏らしたという。インタビューに乗り気じゃなかったパンダは神宮の阪神ファンへ向け、できる限りの笑顔を振りまいていたが、内心は…。
思い返せば、あのシーズン、パンダは8月から打撃不振に陥り、時を同じくしてルーキー大山悠輔が4番に抜擢されるなどした影響で出場機会が減少。9月末の神宮で再昇格を果たしたが、パンダはその後、構想外となったのだ。
大山の放物線に酔った神宮の夜である。八回に四球を選んだマルテの演出を生かした適時打も素晴らしかった。オレが優勝させる-悠輔にはそんな気概の4番でいてほしい。=敬称略=