おばちゃんメンタル

 【4月16日】

 そんな簡単なもんじゃないんすよ。僕が藤浪晋太郎にアレコレ言えば、本人からそう返ってくるかもしれない。でも、言いたくなった。降板後ベンチで相好を崩した晋太郎に、その顔やん!と。

 甲子園で勝ちたい。17年4月以来、長いこと勝てていなかった本拠地でなんとか勝利を…。

 27歳の誕生日を過ぎたばかり。チームは連勝中、そして2ケタ貯金間近。勝ちたい。責任感の強い彼の表情には、何か重いものが滲んでいるように見えた。

 僕の見る限り、めちゃめちゃ硬かった。制球?いや、この夜に限っては、近年、晋太郎が低迷の要因に挙げた「技術不足」云々ではないように僕の目には映った。硬い。ただただ、そう映った。

 今週マスターズを制した松山英樹の所作を見ていて、思った。

 あの松山が笑っている。ラウンド中めったに表情を緩めない松山が、最高峰の舞台で笑っていた。凱旋会見でその理由について問われた王者は、こう語っていた。

 「心掛けてやっていたというのもあると思いますけど、状態が上がってきたというところで、ミスを許せるというか、そういう気持ちになったんじゃないかな…」

 テレビを通じてオーガスタの松山に声援を送りながら、その笑顔を見るにつけ、僕は矢野燿大と、もうひとり、阪神の選手を思い浮かべた。

 糸原健斗である。

 今季、ここまで打撃絶好調の名誉キャプテンは、グラウンドで白い歯を見せる場面が多いように思う。気のせいか…。開幕からずっとそれに注目しながら、これは取材せねば…と思っていた。

 まだまだコロナ禍の規制があるので、なかなか本人とじっくり対面できない。だから、チーム関係者に確かめてみた。

 糸原は意図的に笑みを?

 そんな取材をしてみると、どうやら間違っていないようだ。

 「好打者あるある」で、相手捕手からよく声を掛けられ、笑みを浮かべることもあるそうだけど、今年の糸原は攻守で「脱力」を心掛け、それゆえ、グラウンドで笑顔をつくるのだ、と。

 重圧がある。窮地に陥る。そんなとき、どうすればいいか。「根性」でどうにかなる世界でないことは、プロなら皆分かっている。だからこそ、考える。

 スポーツにおける笑顔の効果は当欄でも書いてきたし、これまで様々な研究で報告されている。

 松山はオーガスタで笑った。

 矢野は勝つために笑顔を携え、「矢野ガッツ」を貫いている。そして、糸原も…。

 「大阪のおばちゃんみたいなユニホームを着ているので、しぶとくいってやろうと…」

 晋太郎はお立ち台でそうかまし笑いをさそった。毎回「大阪のおばちゃんメンタル」でマウンドに上がれば、きっと彼は無双だ。昨季からずっとパフォーマンスは上昇している。自らのミスを許せる余裕が持てれば…。見た目笑わざるとも、心に笑みがあれば、晋太郎はどこでも勝てる。=敬称略=

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