さらば、最強捕手

 【11月7日】

 あれは12年の秋だからもう8年前になる。当時の僕はサッカー担当で、都内でザックジャパンの取材をした後、南青山で石原慶幸と待ち合わせた夜があった。カープ最終戦のナイター終わりだった。

 「きょう、鮨でいいですか?」

 石原が指定した名店でどれくらい話しただろうか。彼が1000試合出場を果たした年だったけれど、故障もあり、不本意なシーズンだったと思う。今思えば、こちらも野球担当を離れていたので、お互い気軽に話せたのかもしれない。大将匠(たくみ)の江戸前鮨と焼酎を堪能しながら、つっこんだ話ができたし、その年限りで引退した金本知憲の話にもなった。

 「カネさん、悔いはないんですかね…」

 「カネさん、阪神の監督されないんですかね…」

 広島時代の金本とはルーキーイヤーの02年に重なっただけ。それでも、東北福祉大の先輩&後輩としてずっと気に掛けられていた。石原と僕は金本を通じて面識をもったものだから、会話も自ずとそんな感じに…。いま、41歳になった彼の引退試合を見るにつけ、8年前の夜が懐かしくなる。

 コロナ禍で記者の人数制限もあって、残念ながらマツダスタジアムで彼のフィナーレを見届けることはできなかった。

 「風さん、(髪の)生え際、まだ大丈夫?」

 会えばネタのように頭髪を気にしてくれる石原である。23歳から彼を知る者としては、もし、この日マツダで顔を合わせていたら「互いに歳とったな…」って声を掛けただろうな。それと、もう一つ。引退会見で質問されていなかったことだから、こう聞くかも。

 本当に、悔いはないか?

 彼は僕にきっとこう言う。

 「全くないといえばウソ」-。

 「若い時にもっとバットを振っておけばよかったとか…。もっと練習しておけば、もっと良い成績が残せたんじゃないか…」

 これはNPBで平成最高の成績を残した打者=金本が12年の引退会見で語った言葉である。

 「悔いはあります」。はっきりそう言ったのだ。

 悔いはない…。野球を辞めるとき、そう語る選手を見るけれど、ウソだと思う。だって毎日100%完壁な野球人などいないもの。どこかでふと力を抜いてしまって少し甘さが出てしまって、それが仇になる。あぁ、しまったな…。もっとこうしておけば…。日々そんな繰り返しで、選手は逞しくなる。そんなものだと思う。

 今シーズンの開幕前、阪神球団本部長の谷本修は、カープ球団本部長の鈴木清明に、雑談のなかではあるけれど、こう打ち明けた。

 「やはり、石原選手のリードは(一番)嫌ですね…」

 当方がバッテリーコーチ藤井彰人に「球界一の捕手は?」と問えば、「石原が最強だと思ってきました」と即答していたっけ。

 毎オフ、石原のトレーニングを見てきた。悔いなどなさそうな、あの「練習の虫」をもう見られないのは、さみしい。=敬称略=

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