「門下生」が働いた夜

 【10月29日】

 一年前のこの時期、丸佳浩と食事を共にした。彼とサシで話せば野球談議に終始するけれど、巨人という職場が「働きやすい」ことはよく伝わってくる。連覇間近で結構だけど、タイトルだけは…。

 かつてカープを担当していたよしみ…といえばそうかもしれないけれど、1997年から3シーズン広島に赴任した僕は丸のカープ時代と全くかぶっていない。じゃどこで面識をもったかといえば、広島のトレーニングクラブ「アスリート」である。金本知憲、新井貴浩の取材で通った「鉄人道場」で、まだ線の細かった若かりし日の丸をよく見掛けたのだ。

 当時、同ジム代表の平岡洋二は僕にこんなふうに予言していた。

 「風、こいつ、よう見とけよ。30発打てる選手になるぞ。(筋力が)ものすごく強いんだよ。昔の金本を思い出すよ」

 07年度の高校生ドラフトでカープから3巡目指名された千葉経大付の外野手をよく知らなかった僕は、大変失礼ながら、平岡の話を流し聞いていた。当時「すごいんですねぇ」くらいのリアクションだったと思うけれど、平岡がやたら「強い、強い」と褒めていたことだけは記憶に残っている。

 筋力を競うわけじゃなし、金本のように技術練習をとことん追求してナンボだと思っていたので、そこまで推す根拠もよく分からなかった。だけど今から思えば、平岡が「金本を思い出す」と言ったのは、何も筋力のレベルだけじゃなく、丸の「努力する才能」「ハードワークに耐えうる体の強さ」に、駆け出しの頃の金本を重ねていた気がする。

 そんな丸がFAでカープを離れてもう2年。この夜プロ通算200号本塁打を放ち、本塁打王争いで大山悠輔に並んだ。丸にとってこの部門初のタイトルも視野に入ってきたわけだが、そこは少し遠慮してもらいたいところ…。

 そういえば、この夜、タイムリーを含む2安打で巨人の優勝を阻んだ梶谷隆幸も、大野雄大の連続イニング無失点を「45」で止めた糸原健斗も、丸と同じ「アスリート」門下生。いずれも平岡が「強い」と言うツワモノである。

 そして、中日との最終戦で打点1を上積みした大山も実は「アスリート」でトレーニングした経験がある。あまり知られていないかもしれないけれど。

 今年もドラフトが終わり、思い出すのは、やはり大山を1位指名したいきさつだ。4年前を振り返ったある阪神球団の幹部はこんなふうに述懐する。

 「大学時代、ほぼウエートトレーニングしていないのに、速球に強く、(当時のドラフトの目玉)田中正義投手(ソフトバンクのドラフト1位)からホームランを打っていた記憶があります」

 トレーニングのアプローチはそれぞれだけど、体作りという視点でいえば大山は相当な伸びしろを残す。そんな中で本塁打のタイトルを争うところまできたことに、彼の潜在性を見出す。キングはもちろんだけど、僕は大山に30発を期待したいのだ。=敬称略=

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