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天国へ届いた…

 【10月8日】

 広島市安佐北区の霊園に「かずさん」はいた。曇天の下、息を吐き、目を閉じ、手を合わせる。

 この日、朝のことだ。

 遺骨はまだ自宅にある。

 あれからもう一年か…。

 「かずさんとこ、行こか」

 かつては、広島遠征のたび金本知憲からよく誘ってもらった。試合がナイターなら、ランチは決まってつけ麺。金本の紹介で阪神関係者が続々と押し寄せるようになり、昼前からカウンターはあっという間に貸し切り状態に…それが昨年までの風景だった。

 麺が違う。つけだれが違う。キャベツの甘みが違う…オンリーワンに目がない虎の面々が「毎日でもいける」と舌鼓を打つ名店。それが、つけ麺「かず」である。

 「かずさん、昔、ワルかったでしょ!」

 カウンターで麺を頬張る金本が駒澤一政(こまざわ・かずまさ)をイジると、厨房の隣で晴美夫人がほほ笑む。強面(こわもて)でちょっぴりぶっきらぼうな大将と綺麗で控えめなおかみさん。おしどり夫婦で営む「かず」は、広島遠征の癒やし…だった。

 「最近は梅野選手も気に入ってくれてるみたい…」

 一政店主は言う。

 「みたい…」というのは、コロナ禍のせい。「外食」が禁じられているため、裏方さんが選手の注文を聞いてホテルへテークアウトする。今年に限っては店内で阪神勢の賑わいを拝めないのだ。

 梅野隆太郎が西勇輝の快投を導き、打では6連打ビッグイニングに貢献した広島の夜だ。この遠征は9打数4安打。カード初日テークアウトで食した「つけ麺」効果…ということにしておく。

 振り返れば、「かず」と金本の付き合いは06年から。それまでカープファンだった大将と、それまで野球に関心のなかったおかみがアニキの虜になり、熱烈な阪神ファンになった。店内に金本の写真パネル、虎グッズ…広島の街で、広島名物を商いにする。余計なお世話だけど、「かずさん」に聞いたことがある。

 商売、支障ないんですか?

 「それがないんよね。カネさんは広島出身でカープで育って、カープファンも認める存在になったけぇ。文句言う人おらんのんよ。阪神へ行ったけど『金本は好き』というカープファン多いけぇね」

 金本ら阪神勢と阪神ファン、そしてカープファンにも愛され、順風だった「かず」を悲運が襲ったのは一年前のこの日だった。

 「今でも、まだ信じられん…」

 最愛の妻であり、最高のおかみさんだった晴美夫人が思いがけぬ病に伏し、昨年10月8日、48歳の若さで帰らぬ人となった。

 金本は絶句し、「かず」を愛する阪神関係者は言葉を失った。

 「きょう、命日じゃけ…」

 強面のかずさんが「泣きそうなわ…」と上を向いて笑う一周忌。

 生前の晴美夫人を知る阪神の面々は皆、こう口にしてマツダスタジアムへ向かった。

 「必ず、勝利を」

 天国へ届いた…。=敬称略=

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